『なぜあの人は中学英語で世界のトップを説得できるのか』(三木雄信著、祥伝社)の著者は、かつてソフトバンク社長室長を務めていたという人物。

当然のことながら同社社長である孫正義氏のすぐそばにいて、海外出張にも同行し、英語でスピーチする姿も何度となく見てきたのだそうです。

そんな立場から著者は、孫正義氏の英語は聞き取りやすかったと感想を述べています。しかし、興味深いのはその理由です。

孫氏の英語は発音が日本人なまりのわかりやすいもので、つまり流暢ではなかったからこそ聞きやすいというのです。

またスピードもかなりゆっくりで、ネイティブのお母さんが自分の幼い子どもに話しかけるくらいの速さなのだとか。

■孫氏は中学英語で世界と交渉

それだけではありません。英文をよく見てみると、きわめてシンプルなものばかりだというのです。使っている英単語がやさしいものだけで、複雑な関係代名詞や高度な仮定法も使っていないというのです。

にもかかわらず、孫氏は世界のトップと互角に交渉している。むしろ、こちらの交渉を通している。

そこで、「中学英語なのに、なぜ相手を説得できるのか」という観点から書かれたのが本書なのです。

当然のことながら、英語に関する孫氏ならではのメソッドが数多く明かされているのですが、本書のおもしろいところは、単なる「英語本」で終わっていないところ。英語の話題が軸になっているとはいえ、その裏側に、プレゼンテーションや交渉に関する孫氏ならではの哲学が垣間見えるのです。

たとえばそのひとつが、「A4の紙1枚の使い方」。

■A4用紙でうまく伝える方法

孫氏は、事前準備なしの手ぶらでミーティングに望むことはまずないのだそうです。

重要な会議であればあるほど、入念に準備をするということ。

多くの場合は、Power Pointのスライドを使ったプレゼンテーションを持っていくそうですが、プレゼンテーションを使わない場合は、小さな紙にキーワードをまとめているのだといいます。

A4の紙を短冊状に折ったものに、自分で書き込んでいる場合もあったのだとか。あるいは、毎朝秘書から手渡される紙のスケジュール表に、手書きで書き込んだもののときもあったといいます。

■英語学習にも有効な事前メモ

著者も孫氏のこうした手法を見習って、必ず事前に準備をしているそうです。

特に英語でのミーティングの前には、A4用紙1枚に自分のいいたいことをまとめているというのです。

箇条書きで、自分のいいたいことを英文でまとめただけのシンプルなもの。また、そのテーマに関連する重要な英単語を、参考のためにまとめておくことも。

このようにミーティング前に準備をすることは、非常によい英語学習の機会になるのだとか。理由は簡単で、絶対に自分がアウトプットをしなければならない立場になるから。

■準備を恥ずかしがる必要なし

「事前の準備をせずに英語でミーティングができないと格好が悪い」と思い込んでいる方もいるかもしれませんが、そうすることを結果に結びつけているからこそ、「恥ずかしがる必要はまったくない」と著者は断言しています。

メモさえつくっておけば、こちらが伝えたいことは必ず伝えることができるから。

たとえ相手のペースで話が進んだとしても、手元の紙に戻れば、もう一度自分のペースに戻ることができるわけです。

また、このような紙が手元にあることが、自分の心配を事前にぬぐい去ることにつながるともいいます。

英語で交渉に臨もうというとき、緊張してしまうのは当たり前の話。でも、そのようなときに、手元の紙はお守りのような役割を果たすというのです。

不安な気持ちのままで臨んでしまうと、英語ができるかできないか以前の、「ビジネスパートナーとしてどうか」というレベルの問題にもなってしまいかねません。

どのようなミーティングであったとしても。静かに自信をたたえた態度で臨みたいもの。そこで、手元の紙がとても有益だということです。

■日本語の会議でもメモは有効

なお、このA4のメモは、ミーティング終了後も捨ててはいけないそうです。

いうまでもなく、これらがたまると、自分にとって最適な単語集と表現集になるから。

だからこそ著者は、ミーティングの前にA41枚のメモをつくることを強く勧めています。そして英語のときだけでなく、日本語の会議でも事前につくる習慣を持つと、さらに有益だといいます。

このように、英語学習を主軸としながらも、さらに広い視野が本書には備わっているわけです。

だからこそ、読んでみればきっと得るものは多いと思います。

(文/作家、書評家・印南敦史)

 

【参考】

※三木雄信(2016)『なぜあの人は中学英語で世界のトップを説得できるのか』祥伝社