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2016年5月 4日 (水)

インターバル規制に助成金

昨日の憲法記念日にこと寄せて、憲法27条2項にはちゃんと「休息」という文字が書かれているということを(何度目かになりますが)綴ったところですが、そしたらその翌日の今朝の日経新聞の1面トップに、でかでかと「退社から翌日出社まで 勤務一定の間隔確保 規則明記で助成金」という記事が載っていました。

http://www.nikkei.com/article/DGXLZO00374750U6A500C1MM8000/?dg=1

厚生労働省は従業員がオフィスを退社してから翌日に出社するまで一定時間を空ける制度を導入した企業に助成金を出す方針だ。就業規則への明記を条件に、早ければ2017年度から最大100万円を支給する。深夜残業や早朝出勤を減らすことで、長時間労働の解消につなげる。・・・

EUが既に導入していることを述べたあと、

・・・政府が5月にまとめるニッポン一億総活躍プランに、この制度の普及を目指すと盛り込む。厚労省は現段階では義務化を考えてはおらず、助成金で導入を促す。・・・

さらに、本ブログでも何回か取り上げてきたKDDIをはじめとする導入企業が紹介されています。

政治的な背景や、労使双方の内情などいろいろと論じうることはありますが、それらはともかく、わたしがEU出羽の守としてこれを言い出してからもう10年近く経ち、なんだかんだといいながらここまできたかという思いも禁じ得ません。

雑誌『世界』の2007年3月号に「ホワイトカラーエグゼンプションの虚構と真実」を書いた時、その最終節は「4 EU型の休息期間規制を」でした。

・・・ 「労働時間の長短ではなく成果や能力などにより評価されることがふさわしい労働者」であっても、健康確保のために、睡眠不足に由来する疲労の蓄積を防止しなければならず、そのために在社時間や拘束時間はきちんと規制されなければならない。この大原則から出発して、どのような制度の在り方が考えられるだろうか。

 実は、日本経団連が2005年6月に発表した「ホワイトカラー・エグゼンプションに関する提言」では、「労働時間の概念を、賃金計算の基礎となる時間と健康確保のための在社時間や拘束時間とで分けて考えることが、ホワイトカラーに真に適した労働時間制度を構築するための第一歩」と述べ、「労働者の健康確保の面からは、睡眠不足に由来する疲労の蓄積を防止するなどの観点から、在社時間や拘束時間を基準として適切な措置を講ずることとしてもさほど大きな問題はない」と、明確に在社時間・拘束時間規制を提起している。

 私は、在社時間や拘束時間の上限という形よりも、それ以外の時間、すなわち会社に拘束されていない時間--休息期間の下限を定める方がよりその目的にそぐうと考える。上述の2005年労働安全衛生法改正のもとになった検討会の議事録においては、和田攻座長から、6時間以上睡眠をとった場合は、医学的には脳・心臓疾患のリスクはほとんどないが、5時間未満だと脳・心臓疾患の増加が医学的に証明されているという説明がなされている。毎日6時間以上睡眠時間がとれるようにするためには、それに最低限の日常生活に必要不可欠な数時間をプラスした一定時間の休息期間を確保することが最低ラインというべきであろう。

 この点で参考になるのが、EUの労働時間指令である。この指令はEU加盟各国で法律となり、すべての企業と労働者を拘束している。EUでは、労働時間法政策は労働安全衛生法政策の一環として位置づけられており、それゆえに同指令も日、週及び年ごとの休息期間を定めるとともに、深夜業に一定の規制を行っているが、賃金に関しては一切介入していない。つまり時間外手当がいくら払われるべきか、あるいはそもそも払われるべきか否かも含めて、EUはなんら規制をしていないのである。労働者の生命や健康と関わる実体的労働時間は一切規制しないくせに、ゼニカネに関することだけはしっかり規制するアメリカとは実に対照的である。各国レベルで見ても、時間外手当の規制は労働協約でなされているのが普通であり、法律の規定があっても労働協約で異なる扱いをすることができるようになっている。たとえばドイツでも、1994年の新労働時間法までは法律で時間外労働に対する割増賃金の規定があったが、同改正で廃止されている。

 EUの労働時間指令において最も重要な概念は「休息期間」という概念である。そこでは、労働者は24時間ごとに少なくとも継続11時間の休息期間をとる権利を有する。通常は拘束時間の上限は13時間ということになるが、仮に仕事が大変忙しくてある日は夜中の2時まで働いたとすれば、その翌朝は早くても午後1時に出勤ということになる。睡眠時間や心身を休める時間を確保することが重要なのである。

 これはホワイトカラーエグゼンプションの対象となる管理職の手前の人だけの話ではない。これまで労働時間規制が適用除外されてきた管理職も含めて、休息期間を確保することが現在の労働時間法政策の最も重要な課題であるはずである。これに加えて、週休の確保と、一定日数以上の連続休暇の確保、この3つの「休」の確保によって、ホワイトカラーエグゼンプションは正当性のある制度として実施することができるであろう。

131039145988913400963_2 その後、2009年7月に『新しい労働社会』(岩波新書)を出版した時、「第1章 働きすぎの正社員にワークライフバランスを」で取り上げたテーマがまさにこのトピックでした。

まずはEU型の休息期間規制を

 残業代規制だけで労働時間規制の存在しないアメリカと対照的に、EUの労働時間指令は労働者の健康と安全の保護が目的で、物理的労働時間のみを規制して残業代は労使に委ねています。

 そこでは週労働時間の上限は48時間とされています。日本より緩いではないか、と思ったら大間違いです。これは「時間外を含め」た時間の上限なのです。EUの労働時間規制は、それを超えたら残業代がつく基準ではありません(それは労使が決めるべきものです)。それを超えて働かせることが許されない基準なのです。最高1年の変形制が認められていますが、これも日本のように変形制の上限を超えたら残業代がつくだけのものとは違い、上限を超えることを許さないものです。これが、(イギリスを除く)EU諸国の現実の法制です。

 イギリスだけはオプトアウトという個別適用除外制度を導入しています。労働者が認めたら週48時間を超えて働かせてもいいというもので、大きな非難を浴び続けてきました。しかし、実はオプトアウトを適用しても労働時間には物理的上限があります。それは休息期間規制があるからです。

 EU指令は1日につき最低連続11時間の休息期間を求めています。これと1週ごとに最低24時間の絶対休日を合わせると、1週間の労働時間の上限はどんなに頑張っても78時間を超えることはできません。たとえオプトアウトでも上限はあるのです。現在審議中の指令改正案ではこの上限を週60時間にしようとしています。

 現在の日本に「時間外含めて週48時間」という規制を絶対上限として導入しようというのは、いささか夢想的かも知れません。しかし、せめて1日最低連続11時間の休息期間くらいは、最低限の健康確保のために導入を検討してもいいのではないでしょうか。

 上記安全衛生法改正時の検討会では、和田攻座長が、6時間以上睡眠をとった場合は、医学的には脳・心臓疾患のリスクはないが、5時間未満だと脳・心臓疾患の増加が医学的に証明されていると説明しています。毎日6時間以上睡眠がとれるようにするためには、それに最低限の日常生活に必要な数時間をプラスした最低11時間の休息期間を確保することが最低ラインというべきではないでしょうか。

 なお、情報労連に属する9つの労働組合が、2009年春闘で残業終了から翌日の勤務開始までの勤務間インターバル制度の導入を経営側と妥結しました。2社が10時間、7社が8時間と、EU指令よりやや緩やかですが、いのちと健康のための労働時間規制という方向に向けた小さな第一歩として注目すべきでしょう。

それ以来、このテーマで書いたり喋ったりしてきたことは結構な数になりますし、これに取り組む労働組合の数も増えてきました。

現時点でもなおこの制度を導入している企業はごくごく少数に過ぎませんが、今後の労働時間のあり方を考える上で避けて通れないものだという認識がこの10年間かけてじわじわと広がってきたことだけは、本邦でこれを紹介し始めた一人として、確信することができます。

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コメント

その翌朝は早くても午後1時に出勤ということになる。

十分な休憩(時間)をとればいいというわけではない。通常、残業といえば、終了時間が伸びたり、縮んだりする。
遅く、出社する場合、実際には起きているのに、午後1時に合わせて出社するのは、体調をこわす。
午後1時なら、昼休みも省略できて、会社にとって都合がよろしい。

夜勤、日勤、24時間(仮眠あり)、などの混在勤務の場合、開始時刻の個数を限定したほうがよい。30分や1時間ずらしたりなど、ロボットじゃあるまいし。実態調査をしたほうがいいな。

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