少子化対策について読者をミスリードしようとする朝日新聞のプロパガンダ記事です。
フランスでは2度の大戦で隣国ドイツと戦った教訓として出産奨励策が戦後に本格化した。70年代以降は、女性の社会進出を支援することが家族政策の大きな目的になっている。
フランスの出生率は70年代半ばに2を割り込み、日本を下回る時期もあった。政策効果が表れ、1.6台で底を打ったのは90年代。2008年に「2」を回復するまで34年かかかった。
1974年以降を拡大します。
「1970年代から1990年代前半にかけて大きく低下した出生率が、政策効果によって1990年代後半から急回復した」というデータ解釈が誤りであることは、フランスの人口学者が指摘しています。
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出生率の情勢指標は、1966年には女性1人当たり子ども2.9だったのが、1975年には1.9、1990年には1.6へと低下したが、その後また上昇し、2010年頃には2で安定する。女性が作る子どもの数が減ったということも多少はあるが、その主な原因は、女性が子どもを作る時期が遅くなったことである。[…]情勢指標の低下が華々しい様相を呈し、出産奨励主義者の間に一時パニックを引き起こすほどであったのは、とりけ女性が母となる平均年齢が上昇したためである。実際はいかなる時点においても、子どもを作る者としての生涯の全期間にわたって女性が産む子どもの最終的な数が、2人より下に落ちたためしはない。*1
女を出生年別にグループ化して、各グループ(コーホート)の各歳の時点における累積出生率をグラフにすると、
- 最終的な累積出生率(完結コーホート出生率)は、1950年代生まれが約2.1、1970年代生まれが約2.0で、低下幅は合計出生率の低下幅よりも小さい。
- 出産年齢の高齢化は1970年代生まれたのコーホートでは減速している。
ことが分かります。
出産年齢の高齢化が合計出生率を一時的に低下させることについて、簡単な数値例で説明します。
ある国において、女は23~32歳の10年間に、毎年平均0.2人の子供を産むとします。下の表では縦方向が経過年、横方向が女の年齢、左上から右下の斜め方向にセルの値を合計したものが完結コーホート出生率になります。一方、横方向の合計が各年の合計出生率(TFR)です。橙色の世代が23歳になるまで(1~3年)、合計出生率は2.0で安定しています。
ところが、高学歴化など何らかの要因によって、緑色の世代以降では出産年齢が5年遅れて、28~37歳の10年間に毎年平均0.2人の子供を産むようになったとします。すると、合計出生率は一時的に低下してから元の水準に再上昇します。
これが、1970年代から2010年頃にかけてフランスで生じていたことです*2。70年代以降の「少子化対策」が本当は少子化対策ではなく、少子化対策を口実としたフェミニズムの勢力拡大だったことは、「70年代以降は、女性の社会進出を支援することが家族政策の大きな目的になっている」ことからも分かります。
他人の子育てを代行するのが保育ママ(assistante maternelle, nounou)で、
フランスでも3歳以下の子ども約240万人のうち、託児所に入るのは1割に過ぎない。それをカバーするのが保育ママの存在だ。国内に約31万人いる。
記事では「幼児3人を預かる保育ママのフローランス・キュイサールさん(61)」を例に取り上げています。年配の女が若い母親に代わって育児を引き受けることは、産業革命期のイギリスでも見られたことであり、特に問題があるようには読み取れません。
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産業革命時代になると、綿工業都市の家族構造には、微妙な変化が現れる。一言で言えば、家族の規模がいくらか大きくなり、老人が若い夫婦と一緒に住む例が現れてくるのである。
綿工業都市に現れた新たな家族構造というのは、この二つのタイプの「弱い」家族が合体したことを意味している。家庭外に職を得て自立はできない高齢者でも、家のなかで子守はできる。子守役が見つかれば、若い妻は働きに出ることができる。こうして、綿工場のような、賃金労働の場が近くにある場合、三世代家族が効率的となったらしいのである。
しかし、この記事が取り上げない「不都合な真実」は、保育ママの多くが途上国からの移民とその子供であることです。先祖が植民地でやっていたことの再現です(詳しくは下の記事を参照)。
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移民や彼らの子どもたちの多大な貢献がなければ、誰が我々のオフィスを掃除し、ゴミを回収し、家を建て、ビルの清掃を引き受けるのであろうか。[…]さらには、誰が我々の子どもの面倒を見るのであろうか。
育児を仕事よりも価値が低い、ゴミ回収などと同種の"dirty work"と見做す高学歴高収入の母親たちは、自分にはふさわしくない"dirty work"を「自分よりも“下”の人々」に低下価格でアウトソースするようになったのです。
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かつての「社交」に「仕事」が代わった現在、一度は消えた「乳母」が復活して、高学歴高収入の母親たちを支えている。今日の「乳母」は、乳をやったりはしないが、出産後間もなく職場復帰していく女性の子どもたちの世話をしているのである。
下の記事で、保育を北欧型(大きい政府)・アメリカ型(格差社会)・伝統型(母親主体)の三つに分類しましたが、フランスの3歳以下の保育は、移民を受け入れて低賃金労働者を増やすアメリカ型になります。
フランスは、高学歴高収入の母親たちを支えるために、国是のはずの平等を捨て去ったわけです。フェミニズムが本質的に平等の敵であることが分かります。
ジャン=ジャック・ルソーは平等を、自由と不可分なもので、
いかなる市民も他の市民を金で買うほど豊かであってはならず、またいかなる市民も自らを売らざるを得ないほど貧しくあってはならない。
という主題として定義した。
シンガポールも同じです。ちなみに、シンガポールの2015年の合計出生率は1.24と低く、「女性の社会進出支援」が本質的な少子化対策ではないことを証明しています。*3
共働きができる背景には「リーズナブルなメイドの供給」があると思う。シンガポールにいる欧米エリートたちは「自国でメイドさんを雇うなんて考えられない」という。それくらいシンガポールは家事支援環境が整っている。近隣諸国から大量にメイドの供給が可能であり、かつ事実上最低賃金がないため非常に安く雇うことができる。*4
日本や諸外国の経験が示しているのは、女の社会進出は途上国からの労働力の移入(→多民族社会化)and/or少子化(→国力衰退)を引き起こすということです*5。この事実がpolitical correctnessに反することが、本当に有効な少子化対策を不可能にしています。
ところで、フランスを少子化対策の成功例として(都合よく)取り上げるのは朝日新聞に限ったことではなく、政府も財界も「模範例」としているようです。このことは、日本のエリートが左右を問わず、日本社会をアメリカや西欧、シンガポールのような異民族が溢れる格差社会にすることを目論んでいることを示唆しています。
ルペン氏は「ドイツは自国の人口が伸び悩んでいると考え、低賃金の労働者を求め、大量の移民受け入れを通じて奴隷の雇用を続けている」と演説した。
アメリカと西欧では、人口の1-2割を占めるエリート(professional class)が、平等よりも「自分たちの自由」を優先したことで、一般大衆が「安心していられる協力的な社会」が崩壊しつつあります。その反動として極右政党やトランプ候補の支持率が上昇しているわけですが、日本のエリートは周回遅れで破壊的路線を突き進もうとしているわけです。*6
日本社会を不可逆的に変えてしまう一大事なので、本来なら、これが政治の対立軸になるべきなのですが、「極右」政党の不在のために、エリートの望む社会がなし崩し的に実現しつつあるようです。
*2:日本の合計出生率が「1997年に1.4を割り込む→2005年に1.26で底打ち→2012年に1.4台を回復」と推移したメカニズムも同じです。予想される完結コーホート出生率は約1.4でほぼ一定です。
*3:1976、1988、2000、2012年の出生率が跳ね上がっているのは、辰年生まれは縁起が良いとされるため。
*4:[引用者注]リーズナブルなメイド=低賃金で働く奴隷
*5:上野千鶴子が指摘するように、「エリート女はエリート男しか愛せない→主夫とは結婚しない」傾向が強いため。
*6:一般国民はまだ実感できていないかもしれませんが、「グローバル競争の時代には、従業員の生活など知ったことではない」と考える企業経営者が増えたように、「グローバル化の時代には、庶民の生活など知ったことではない」と考える政治家や財界人が増えていることは間違いありません。