時論公論 2016.04.13


生字幕放送でお伝えします
こんばんは。
時論公論です。
2020年東京オリンピック・パラリンピックの新たなエンブレムの最終候補の4つの作品が公開され、大会の組織委員会が、国民から意見を募集しています。
オリンピック・パラリンピックのエンブレムを、候補の段階から公開するのは異例のことで、そのねらいはなんなのか。
そして、依然として残ります、不透明さの課題、さらには、この問題の根本ともいえる不信感の払拭について、今夜は考えたいと思います。
まずは、候補作公開のねらいについてです。
そもそもエンブレムは去年の7月、デザイナーの佐野研二郎氏の制作した作品が、一度は選ばれ、発表されましたが、ベルギーの劇場のロゴと似ていると指摘されたり、選考過程の閉鎖性が批判されたりして、去年9月に白紙撤回されました。
エンブレムは、大会のシンボルであるだけでなく、さまざまな商品やコマーシャルにも使われるため、巨額の利益を生み出します。
それだけに、国民が納得できる、開かれた選考方法であるかどうかが、大きな課題となっていまして、新しいエンブレムでは、候補の段階から、公開することになったわけです。
そこで先週公開されたのが、こちらの作品です。
4つの作品があります。
オリンピックとパラリンピックのエンブレム。
2つが1組になっていまして、合計4つの作品です。
向かって左側がオリンピック、そして右側がパラリンピックの、それぞれエンブレムとなっております。
前回の反省は、どう生かされたのでしょうか。
審査は、全く新しい委員で行われました。
王貞治さんや杉山愛さんといったアスリートをはじめ、弁護士やインターネットの専門家など、さまざまな分野で活躍する、21人がメンバーとなったエンブレム委員会で、選考が行われました。
また閉鎖的という批判を解消するため、作品の募集は受賞歴を問わない、一般公募になりました。
前回が104点の中から選ばれたのに対しまして、今回は大幅に増えまして、公募では1万5000点近い作品が集まって、エンブレム委員会が議論や審査を重ねました。
類似している作品がほかにないかという課題に対しましては、およそ3か月間、世界中で登録されている商標を、少なくとも800万円以上かけて、調査をしました。
候補の段階の作品の商標を調査したうえで公開するという、異例の対応です。
さらに、開かれた選考であることを強調するため、組織委員会は、インターネットとはがきで、国民からの意見を今月17日まで、募っています。
最終的には、今月25日に、委員による投票で、新しいエンブレムが決まります。
先週のこうした作品の公開以降、インターネット上での反応は、どの作品が好きかをコメントするものがほとんどでして、今のところ、前回のような類似作品を指摘する書き込みが相次ぐような事態にはなっていません。
こうして見ますと、前回のエンブレムで指摘された課題は、一定程度、改善されたといえます。
しかし、依然として透明性の確保という点では、疑問が残りました。
1つは、国民から募集する意見をどう審査に反映させるのかが明確ではない点です。
寄せられた意見は、事務方である組織委員会が、要約したものを、実際に審査を行いますエンブレム委員に伝えるというようになっていまして、どの作品を推す声が多かったのかなど、数での評価はされません。
寄せられた意見の中には、プラスの意見もあれば、マイナスの意見もあるはずで、それをどういう配分で要約をするのかは、いわば組織委員会しだいです。
ですから、国民からの意見はあくまでも審査の参考という位置づけです。
一時は国民によるネット投票を検討するほど、国民参画にこだわっていただけに、集めた意見をどう反映させるのか、具体的に示す必要があると思います。
次に、選考過程の透明性についても疑問は残りました。
組織委員会は、ことし1月9日のエンブレム委員会で、4つの作品にまで絞り込みました。
このとき、商標調査を通らなかったときに備えて、次点の4作品も合わせて選びました。
ですから、合計8つを選んだわけです。
そしてこの8つの作品の中から、採集候補を選ぶという方針を発表していました。
ところが、実際は違っていたんです。
先週発表された最終候補の4つの作品の中に、次点にすら入っていなかった作品が1つ含まれていたんですね。
国民に知らせていた選考の方法が、いつの間にか変更されていたという事実を最終候補の発表の日に突如、明かされたため、報道陣からは、選考の公正さを疑う指摘が相次ぎました。
なぜ、こういう事態になったのか。
組織委員会は、商標調査を進めたところ、類似する作品などが見つかり、次点の作品を繰り上げたものの、それでも引っ掛かる作品が出てきたため、落選した作品の中から選び直したと説明しています。
結局、最初に選んだ4つの作品の中で、今も残っているのは一つだけでした。
一方で、組織委員会は、落選した作品の中から選び直したことについて、個別の作品の案件になるので、それがいつ選ばれたのかや、そのときに出席した委員の数などは、明らかにできないとしています。
問題なのは、1月以降もエンブレム委員会の記者会見はたびたび開かれていましたけれども、それなのになぜ、選考の方針を変えた時点で、その事実を国民に伝えなかったのかという点です。
組織委員会の幹部は、そこまで説明しないといけないものかと、困惑していましたが、実は白紙撤回の問題の本質がここに隠れているように思います。
どういうことか。
これが今夜の3つ目のポイントです。
そもそも3年前に招致が決まった時点で、国民は東京での56年ぶりの開催を大いに喜んでいました。
しかし、その後、大会のメイン会場となる新国立競技場の建設コストが膨れ上がり、当初の設計案が去年7月に白紙撤回され、同じ月にエンブレムの問題が浮上し、そして、白紙撤回にその後、追い込まれた、そういう経緯があります。
いずれも問題が指摘され始めてからの対応が遅く、責任の所在がはっきりしませんでした。
つまりは、エンブレムの問題は、デザインのよしあしや、審査の進め方が大きく問われはしましたけれども、問題の根本にあるのは、新国立競技場の問題から続く一連の対応への不信感です。
この不信感をいかに払拭できるかが問われているのであって、これこそが問題の本質なのではないでしょうか。
もちろん、国立競技場の建設計画は、JSC・日本スポーツ振興センターが事業主体のため、エンブレムの選考とは主体が違うわけですが、国民からすると、同じオリンピック・パラリンピックの話であって、東京大会は本当に大丈夫なのかという心配につながっているというわけです。
東京オリンピック・パラリンピックを巡っては、今後も国立競技場の降旗が、本当に計画どおりに終わるのか。
聖火台の設置場所は、一体どうなるのか。
またさらには、東日本大震災の復興が十分でない中で、大会全体にかかる費用が一体、どこまで膨らむのかなど、大会を巡る心配事が当分続くと考えている国民は、少なくないと思います。
いつも以上に丁寧に国民への説明責任を果たす。
その誠実な対応こそが、不信感の払拭につながると思います。
今月25日の新エンブレムの発表の際には、途中で選考方法が変わった経緯も含め、最終的に選ばれる作品が、どのように決まり、そこには国民から寄せられた意見がどのように生かされたのか、疑念を持たれない具体的な説明が聞けることを期待したいと思います。
今夜はこのへんで失礼します。
2016/04/13(水) 23:55〜00:05
NHK総合1・神戸
時論公論「東京五輪エンブレム候補作公開 教訓はいかされたのか」名越章浩解説委員[字]

白紙撤回で揺れた東京五輪のエンブレムの最終候補作品がやっと公開され、国民からの意見募集が始まった。国民から愛されるエンブレムが生まれるための課題とは?

詳細情報
番組内容
【出演】NHK解説委員…名越章浩
出演者
【出演】NHK解説委員…名越章浩

ジャンル :
ニュース/報道 – 解説
ニュース/報道 – 定時・総合
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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