JR宝塚線(福知山線)で電車が脱線し、107人が死亡した事故から11年たった。

 誰もが安全を疑わなかった鉄道が一瞬で多くの命を奪った。カーブをよりきつくしながら、安全装置を付けなかったJR西日本の対応が非難された。

 ただ、カーブでの脱線を「想定外」としてきたのはJR西日本だけではない。他の鉄道会社も事故が起きるまで、危険性を十分に認識していなかった。

 鉄道に限らず、高度に発達した技術は社会に多大な恩恵をもたらしたが、ひとたび人に牙をむけば被害も甚大だ。どの産業も「安全最優先」でシステムを整えているはずなのに、「想定外」の事故は後を絶たない。

 脱線事故の遺族らは教訓をJR西日本だけにとどめず、社会をより安全にするために生かそうと模索し続けてきた。重い問題提起を社会全体で受け止め、真の安全向上につなげたい。

 一部の遺族は、「想定外」の事故に至るまでの組織的な問題を、当のJR西日本の経営幹部とともに掘り下げる、という異例の試みに取り組んだ。

 2年前にまとまった「安全フォローアップ会議報告書」は、安全管理体制のあり方を具体的に提言している。とくに強調しているのは、第三者の目による不断のチェックの重要性だ。

 より速いダイヤで収益増を目指したJR西日本が典型だが、企業の自主的な安全管理は経営事情などに左右され、社会が望む水準を下回ることがある。それを防ぐには、利害関係を持たない第三者の検査が望ましい、とした。

 JR西日本は提言を受け入れ、昨年から安全管理体制の全般について、外部専門機関の評価を受ける仕組みを導入した。

 事故やトラブルが起きてからあわてて第三者委員会を設ける企業が目立つが、本来は未然防止に役立てるべきだろう。「外の目」をもっと積極的に活用する動きが広がってほしい。

 別の遺族らは先月、事故を起こした企業などの組織に刑事罰を科せるよう、新たな法律の制定をめざす会を結成した。23歳の長女を亡くし、会の代表に就いた大森重美さん(67)は「役員の責任を問うことで組織が根本から変革され、本当に安全な社会が実現できる」と訴える。

 運輸安全委員会の事故調査への影響など、刑事罰導入には課題も指摘されているが、国レベルで議論を深めていくべきだ。

 事故の教訓は尽きていない。一つでも多く引き出し、社会に生かす。それが、失われた命に対するせめてもの報いである。