日韓両政府が昨年末、慰安婦問題で政治的に合意し、4カ月の時が過ぎた。

 この間、国際的な場での相互非難などはなく、両政府レベルでは少なくとも合意を尊重する姿勢を堅持している。

 多分に国内のナショナリズムを刺激しやすい問題だけに、両政府とも慎重にことを進めているのは評価できる。

 肝心なのは、元慰安婦の名誉と尊厳の回復や心の傷の癒やしを目指すという合意の本質を忘れないことだ。

 それを実践する具体的な措置として、韓国政府は元慰安婦の支援を目的とする財団を作り、日本政府は国家予算から10億円を出すことになっている。

 先日あった韓国の総選挙で、政治争点化することを避けるため、表だった動きは見えてこなかったが、財団設立に向けた準備は韓国で進んでいる。

 総選挙では朴槿恵(パククネ)政権を支える与党が惨敗したことで、日本政府内では合意の履行への悪影響を懸念する声が出ている。

 しかし朴大統領は先日、元慰安婦らが高齢化していることなどを理由に、履行に向けた措置を急ぐ考えを表明した。基本的な姿勢に変化は見られない。

 もとより先の合意は、日韓ともに国内の政争の具に使われるべき問題ではない。

 その意味で最大野党の代表が駐韓日本大使との会談で、履行を加速化させる必要性を説いたことは前進といえる。

 韓国政府が元慰安婦に合意内容を説明したところ、少なくとも14人が肯定的に評価したという。政治合意を受け、韓国での空気にも変化がみられる。

 財団がなすべき具体的な支援の詰めはこれからだが、元慰安婦や遺族への金銭補償のほか、教育・啓発などの記念事業も含まれるだろう。その際、日韓の関係団体や研究者など、特定の主張だけに偏らない多様な声を拾い上げていくべきだ。

 日本の一部には、ソウルの日本大使館前に立つ少女像の移転が、資金支出の前提条件であるかのような主張が出ている。

 この問題は合意で、韓国政府が「適切に解決されるよう努力する」と盛り込まれた。交渉過程で日本側があえて努力目標にとどめたのは、移転を条件にすると逆に反発が起き、解決が遠のくと判断したためだ。

 合意に基づき、韓国政府は支援団体などの説得にあたらねばならないのは当然だ。同時に日韓両政府は、すべての合意が速やかに履行できるような環境づくりを加速させる必要があるだろう。