韓国でも人気のダイソーや笑笑 韓国系企業との噂がある理由
筆者はソウルの若者街の「シンチョン(新村)」に長く住んでいる。周辺に延世大、梨花女子大、西江大、弘益大といった大学のほか各種学校もたくさんあって学生の往来が多い。中心は地下鉄の駅がある5差路で通称「シンチョン・ロータリー」といっている。このロータリーに最近、100円ショップで知られる日本の「DAISO(ダイソー)」がオープンした。
小さなビルの地下1階と地上3階の“大型店”だが、盛況でレジにはいつも列ができている。ダイソーは韓国でも全国展開しているが、ここはソウルの一等地だ。韓国でのダイソー人気の定着ぶりを物語っている。
ところが街では「ダイソーは韓国系企業」というウワサが結構あるという。その話をしてくれた韓国人によると「“ダイソー ”が韓国語だから」だそうな。
ム、ム……? だが、つまり「ダイソー」の語源は韓国語の「ターイッソ(みんなある、何でもあるの意)」なので、創業者の在日韓国人がそう命名したというのだ。
周知のようにダイソーは広島の「大創産業」で在日韓国人とはまったく無関係。日本のものを何でも韓国起源といいたがる“ウリ(われわれ)ジナル主義”の一つで、最初、誰かが冗談でいいふらしたのが口コミやネットで広がったらしい。っ、たくもう……。
実はダイソーは韓国では過去すでに商標トラブルに巻き込まれている。韓国企業がダイソー人気にあやかって早速、「ダサソー」なる店を始めたからだ。ダイソーに訴えられて負けたが、その時の言い分が「こちらは“ターサソ(みんな買って……)”という韓国語が語源だからパクリではない!」だった。今回の“ウリジナル”もそのあたりから派生したのかもしれない。
余談だが、韓国の「ダサソー」は筆者が住んでいる新村ロータリーのワンルーム・マンションの隣にもあったが、敗訴の後、ミニスーパー風に衣替えしたものの結局、つぶれてしまった。
ところで韓国では依然、日本風居酒屋ブームが続いている。近年は若者街やビジネス街から高級志向のカンナム(江南)地域にも広がっている。日本語の屋号もだんだん凝ってきて「日本式伝統炭火焼き 天下の文太郎」とか「日本風炭火焼き 私の道」「炉端居酒屋 えんらく」や「ヒーリング居酒屋 癒し」といった日本の時流にのったネーミングまで多様だ。
日本系チェーンも「和民」をはじめ進出が盛んで「笑笑」もその一つ。ところがこの「笑笑」にも韓国系企業説が出ている。「わらわら」が韓国では「来い、来い」の意味になるからだ。韓国では近年、こんな語呂合わせみたいな屋号が流行っているので誤解しているのかもしれない。
ダイソーもそうだが、韓国人が韓国系企業と誤解するのは勝手だ。「ヤクルト」や「リンナイ」だって韓国人からよく「日本にもあるの?」といわれる。日本ビジネスにそれだけ人気と親近感があるということだから、日本人としてはもって瞑(めい)すべしだろう。
昔、『日本の中の朝鮮文化』シリーズで知られた在日韓国人作家の金達寿氏が、神奈川県の「大磯」は韓国語起源だといって笑い話になったことがある。韓国南部の釜山あたりでは「いらっしゃい」のことを「オイソ」という。そこで古代に朝鮮半島から関東地方にやってきて住み着いた渡来人が、後からきた連中に「オイソ!」といったのが後に「大磯」になったというのだ。
韓国人の対日誤解はユーモアなのかコンプレックスなのか。実に面白い。
●文/黒田勝弘(産経新聞ソウル駐在客員論説委員)
【PROFILE】1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『韓国はどこへ?』(海竜社刊)など多数。
※SAPIO2016年6月号