ミラクルストーリーの主役は、最強の“成り上がり”ストライカーだった。つい数年前まで工場勤務のアマチュア選手だった男が、記者の選ぶFWA年間最優秀選手に輝き、世界で最もリッチなリーグの頂点に立った。ジェイミー・ヴァーディの1年間を、背番号と同じ「9つ」のトピックスで振り返ってみよう。
①ゴール! ゴール! ゴール!
まずはやっぱり、ギネス記録にも認定されたプレミアリーグ新記録の「11試合連続ゴール」だ。8月末から11月末まであらゆる試合でネットを揺らし続け、ルート・ファン・ニステルローイの記録を塗り替えた11試合目がマンチェスター・U戦だったのもどこか運命的だった。
マンチェスター・U戦で11試合連続ゴール記録を樹立した [写真]=Getty Images
後半戦はややペースが落ちたものの、それでも随所で大事な一発を決めて英雄ギャリー・リネカー以来となるトップリーグでの「20ゴール越え」も達成。
もちろん、「彼のプレーが中盤とDFを含めた全選手の方向性を定めている。彼のハードワークがベースを作るんだ」とDFダニー・シンプソンが話すように、守備の貢献も忘れてはいけない。
②バティ、トッティ、ファン・バステン‥‥そして馬?
「チームにプリマドンナはいない」がモットーのクラウディオ・ラニエリ監督だが、ヴァーディを語る言葉にだけはどうしても愛が溢れ出てしまう。
連続ゴール記録が迫れば、かつて率いたフィオレンティーナで同じ11戦連発を達成したガブリエル・バティストゥータと比較した。2月のリヴァプール戦でスーパーボレーを決めれば、「(マルコ)ファン・バステンみたいだったね。それに(フランチェスコ)トッティがサンプドリア戦で決めたゴールを見たことがあるかい?」と興奮気味にまくしたてる。挙げ句の果てには「ヴァーディはフットボーラーではない。素晴らしい馬なんだ」と、指揮官の賛辞はとうとう人外のレベルに到達してしまった。
ラニエリ監督(右)もヴァーディ(左)への賛辞は惜しまない [写真]=Sunderland AFC via Getty Images
③手首が折れても関係ないぜ、究極のタフネス
第34節ウェストハム戦で退場して出場停止になるまで、全試合に出場。その間には数々のケガを負ったものだが、そんな影響はみじんも感じさせなかった。
たとえば、長らく右手に巻く青いテーピングは、9月のアストンヴィラ戦で手首を複雑骨折し、ギプスをしているから。11試合連続ゴールの後にはそけい部に痛み止めの注射を打ちながらプレーし、練習が一切できない時期もあった。問題を解決すべく年明けに手術を受けたが、その際だって1試合たりとも休まなかった。まさに鉄人だった。
④成功の証は2600万円の高級車
つい数年前まで工場で働きながらプレーしていた男が、2月のある日、約2600万円の高級車ベントレー・コンチネンタルGTに乗って颯爽と練習場に現れた。
ウェイン・ルーニーやデイヴィッド・ベッカムの愛車と同モデルの高級車は、その直前にクラブからの新契約を勝ち取った自分へのご褒美だったとか。この契約更改でヴァーディの年俸は推定6.5億円となり、一気にそれまでの倍に増えたと言われている。
ちなみに、チームメイトを招いて優勝の瞬間を迎えたレスターシャーの自宅は推定1億5000万円の邸宅と言われている。
レスターの選手たちはヴァーディの自宅で歓喜の瞬間を迎えた [写真]=Leicester City FC via Getty Images
⑤ハリウッド? 仰天の映画化プラン!
一発逆転の半生を映画化する計画が進行中。脚本は『GOAL!』シリーズを手がけたエイドリアン・ブッチャート氏で、劇中の音楽担当にはヴァーディと親交があるレスター出身のロックバンド「カサビアン」のギタリスト、サージが「映画をやるなら話を聞くぜ」と乗り気のコメント。
気になる主演候補には、大のフットボール好きで知られるワン・ダイレクションのルイ・トムリンソンなどが噂されている。なお、ラニエリ監督は自分役に「ロバート・デ・ニーロ」を希望している模様。
⑥ポテトチップス「ヴァーディ塩味」
レスターに拠点を置き、クラブのパートナーでもある菓子メーカー「Walkers」が、看板商品であるポテトチップスのカバーにヴァーディを起用した限定版をスタジアムで配布。その名も「ヴァーディ塩味」のポテチはファンに大好評を博したが、中には食べずにネットオークションに出品した人も。わずか3万2000袋しか作られなかったため、なんと最高で140万円の高値がついたことも話題になった。
⑦「ヴァーディ通り」に、娘の名前?
レスター市議会には、街のストリートを「ヴァーディ通り」にするようファンから手紙が届いている。すでに街には「リネカー・ロード」などが存在することから、レスター市長も「非常に筋の通った要求だと言える」と好意的だ。
一方では、生まれてくる娘のミドルネームに「ヴァーディ」を入れようとする強者サポーターも。妻がしぶしぶ認めた条件はオンライン上で「5000人」の署名を集めることだったが、そんなノルマはあっさり達成。出産予定日はユーロ2016開催中の6月19日だそうだが、結果はいかに……?
⑧知っている人は知っていた?
シンデレラボーイが現れると、「私は前から知っていた」と言い出す人間が現れるのは世の常だ。ヴァーディの場合も然りだが、その1人がアレックス・ファーガソンだった。
「私の息子ダレンがピーターブラの監督をしていたとき、アマチュア時代の彼を獲得目前だったんだ。最終的にレスターが手に入れたがね。ヴァーディは決して諦めないし、大きな信念を保つことができる選手の典型だ」。
また、SNS上では過去のあるツイートも話題に。「@SamTikaTaka」というアカウントが「ジェイミー・ヴァーディ。この名前とこのツイートを覚えておけ」とつぶやいた2012年1月11日は、ヴァーディが当時2部のレスターに移籍する半年前、5部フリートウッド・タウンでプレーしていた頃である。
フリートウッド・タウンでプレーしていたヴァーディ [写真]=Getty Images
⑨夢をつかんだ男の恩返し
「以前の自分と似た境遇の選手がたくさんいることは知っている。僕は16歳のとき、小さすぎるからとシェフィールド・ウェンズデイのシステムから脱落した。そのときの気持ちは覚えているよ。立ち直ってプロを目指すのは大変だった。そういうことに関して何かできないか考え、V9を立ち上げたんだ」
ヴァーディが立ち上げた「V9アカデミー」は、アマチュア選手がプレミアリーグ経験を持つコーチの指導を受け、プロクラブのスカウトにプレーを見てもらえる機会を提供する取り組みだ。今年の夏から参加者募集を始め、2017年から本格スタートの予定だとか。
近い将来、ここから“第二のヴァーディ”が生まれる日が来るかもしれない。
(記事/Footmedia)