INTERVIEW

ニューヨーカーマガジンが「今、気になる人物」にインタビュー。

Vol.12 浅葉克己

TRADITIONAL STYLE

2013.8.14 UP 

Vol.12 浅葉克己

広告、タイポグラフィの第一人者として、地球文字探検家として世界を巡り、第一線で活躍し続けている浅葉克己さんが登場。お話を伺ったのは手掛けられた作品やたくさんの書に囲まれた、浅葉さんの仕事場にて。
Photo_shota matsumoto
Text_jun takahashi(rhino inc)

雑誌「ニューヨーカー」のイラストレーターに憧れて。

ー 浅葉さんがデザイン・文字の道を目指したのは何歳からですか?

浅葉克己 最初はイラストレーターになりたかったんだよね。アメリカに「ザ・ニューヨーカー」という雑誌があったんだけど、その表紙のイラストを描いていたスタインベルグって人に憧れて。今日のインタビューはそれの日本版なんでしょ?

ー いえ、今回はニューヨーカーというアパレルメーカーが発行しているWEBマガジンのインタビューなんです。

浅葉克己 へえ、そうなの。よろしくおねがいします。

ー こちらこそよろしくおねがいします。えっと、最初イラストレーターになりたかったんですよね?

浅葉克己 あ、間違えた。その前に船乗りになりたかったんだ。生まれが金沢文庫だったから、海と生活が近くてね。三崎の水産学校を卒業すると小さな船団の船長になれるって聞いて。港、港に女ありでいいんじゃないかなと。でもね、図画の先生に「君は体が小さいから船乗りは無理だよ」って言われちゃって。「船のデザインもする、いい学校があるよ」と言われ、乗りたかった船とデザインをする船が結びついてね。じゃ入ろうと。

イラストレーターの前に船乗りに憧れて。

ー 船乗りになりたかったんですね。意外です。

浅葉克己 そうでしょ。小さな頃から体を動かすことが大好きで、小学校4年からボーイスカウトを本気でやってたから。今は卓球を毎週やっているしね。ちなみにボーイスカウトって簡単に言ってもね、初級、二級、一級、菊、隼、富士と6階級あるんです。富士になるには45の技能をマスターしないといけないんですよ。

ー 具体的にどんな技能が必要なんですか?

浅葉克己 例えば炊事章。これは生きたニワトリを一匹もらってきて、一からさばいて料理するんです。手旗信号も完全にできるし、有線通信や裁縫とか、いろいろ。

ー どんな環境でも生きていけそうですね。話を戻しますが、高校はデザインの学校に入ったんですよね?

浅葉克己 そう。県立神奈川工業高校工芸図案科で3年間デザインを勉強し、卒業後横浜の伊勢佐木町にあった「松喜屋百貨店」宣伝部に入って、広告制作や内装をやってました。そこの先輩が佐藤敬之輔さんという文字の先生を紹介してくれて、一から活字を設計する修行が始まったんですね。偉大な先生だったから、いろんな影響を受て、すっかり文字の世界のトリコになっちゃて。

よく佐藤さんが「絵は500年、文字は1000年」と話してて。すごさは伝わってくるんだけど、最初は意味が分からなかった。

ー 佐藤さんの下ではどんな修行をしていたんですか?

浅葉克己 例えば1ミリ幅の中に10本の線を引く。これができないとタイポグラフィはできないぞ、と。カラス口(ぐち)という、製図用の特殊なペンで毎日ずーっと引いて。そしたら22の春に引けたんだよね。その紙取っておけばよかった。今引けって言われても無理なんだけど、本当に引けたんだ。

そんな修業時代を経て、ライトパブリシティという広告制作会社に入ったんです。広告の世界も面白そうに思えて。イラストもデザインも文字もあるでしょ? 広告には。

ピンクのキリストという異名。

ー 真ん中がライトパブリシティ時代の浅葉さんです。

浅葉克己 ああそうね。格好いいじゃない。ビシっとシャツ着ちゃってさ。アートディレクターの村越襄さん、コピーライターの土屋耕一さんと私です。ここね、僕の部屋ですよ。懐かしい。

ー 普段からスーツを着て仕事をしていたんですか?

浅葉克己 うん。昔はみんなお洒落でしたよ。ライトが銀座にあったから、やっぱり一番最初に背広をつくったのは山形屋だよね。あそこでヘリンボーンの背広を最初につくったんです。ズボンは茶色にしよう、と。その前はニューヨークに行ってヒッピーになって帰ってきたから、ピンクのキリストさんと呼ばれちゃってました。

ー ピンクのキリストとは……

浅葉克己 当時訪れた、京都の芸者さんに言われたの。長髪で目をギラギラさせて、女の子ばかり見てたから。うまいこと言うよね。

お茶漬けから生まれた「おいしい生活」

ー 浅葉さんが生みだした数々の広告の中で、「おいしい生活」が印象に強く残っています。あの広告はどのようにして生まれたんですか?

浅葉克己 ああ、西武ですね。エジプトに「不思議、大好き」という西武の広告のロケに行ったとき、糸井重里さんと飛行機でまずい機内食に辟易していたとき「こういうときにお茶漬けでも食べられたらいいよね」「こういうのっておいしい生活だよね」と話したところから発想が広がって。で、トントン拍子に話が弾んで、だれかこのコピーのイメージに合う人いないかな? という話になって。

埋蔵量の多い人間がしっくり来るぞ、という話から、映画監督で詩人でもあり、作家でもあってクラリネット奏者でもあるウディ・アレンがぴったりだ! と盛り上がって交渉をはじめたんです。

ー すんなり出演してくれたんですか?

浅葉克己 それがなかなか首を縦に振ってくれなくて。「何で俺が日本の広告に出なきゃならないんだ」と。結構粘られて、「西武グループには映画館があるから、あなたの映画を上映できる」と言ってみたら「じゃ出ます」とコロっと変わって。

で、浅草とか海岸とかいろんなシーンで撮ろうと考えていたんだけど、今度は「飛行機が嫌いだから日本には行けない」と言ってきて。それで我々がニューヨークに行くことになったんですね。

ー ウディ・アレンが手にしていた「おいしい生活」はご本人が書いたんですか?

浅葉克己 そう。お手本で書いてあげたんだけど、上手だったねえ。サラサラと書いて。全部で12枚あったんだけど、サインをいれて関係者に送っちゃった。

文字をゴーンと立たせる。

ー 「おいしい生活」の広告も印象的ですが、浅葉さんのつくられた広告を見ると、言葉や文字の力を感じます。

浅葉克己 そうだね。文字を立たせてね。ゴーン! と。 やっぱり僕が文字をやってきたからだろうね。それと言葉がないとしっくりこない気がする。言葉をつかう動物は人間だけだもんね。

ー 文字といえば浅葉さんは地球文字探検家として、様々な場所に文字を探しに行っていますね。

浅葉克己 ええ。そこに文字があれば、どこへでも。今現在使われている文字は56、言語は3000ぐらいなんだって。どちらもだんだん減ってるって聞きました。その文字で新聞が出ていることで、その文字が生きている、という規定でカウントしているんだけどね。その中にトンパ文字は入っていないんです。

トンパ文字とは

現在も使われている、世界で唯一の生きた象形文字。中国の少数民族、ナシ族に伝わる文字は、トンパと呼ばれる司祭の間でのみ受け継がれてきたため、標準化されておらず、異体字も多い。約1,400の単字が確認されている。写真は浅葉さんが手掛けたpanasonicのポスター。トンパ文字で「苦しみや、つらさを味わわなければ、喜びはどこから来るのか。」と書かれている。

今も活きる、象形文字。

ー トンパ文字とはどんな出会いだったんですか?

浅葉克己 友人の中西亮さんにトンパ文字が書いてある本を見せてもらったのが最初。こんな絵のような象形文字で、今もコミュニケーションしている人たちがいることが不思議でならなくて、冒険家としては冒険心に火が付いちゃって。まず当時京大の図書館の館長をされていた西田龍雄さんという言語学の大先生に声を掛けて、トンパ文字が生まれた中国雲南省の麗江(れいこう)に行きました。

ー どんな場所だったんですか?

浅葉克己 上海から昆明(こんめい)に行って、そこから丸2日かけて車で行くとても長い道のりなんだけど、田園が広がっていてとても美しい場所でした。今はもう世界遺産に指定されたから、空港もできて街全体が開けてディスコ騒ぎです。昔は陸路しかなかったから、10日くらいかけて行ってたんです。

ー トンパ文字は実際に使われていたんですか?

浅葉克己 もちろん使われていますよ。現地にトンパ文化研究所という施設があって、老トンパと呼ばれるマスターになるため、若いお坊さんが何年も修行している場所があるんです。つまり、いまでも文化や文字がしっかり守られているんですね。今まで麗江には5回くらい行ったんだけど、日本には1冊もトンパの教典が入っていないことがわかって。持ち出し厳禁だから当たり前なんだけど、どうしても日本に持ち帰りたくなって、トンパ教典持ち帰り作戦を発動させました。

まず、一緒に取材していたカメラマンのリーさんを連れて、真夜中にそーっと教典がある骨董屋へ向かったんですね。運良く大雨が降っていたことはラッキーでした。足跡を雨が消してくれるから。で、その骨董屋の店主に「アレを持っているだろう」と伝えると、何も言わずにお店のカーテンをバッと閉めて、かなり強い酒を出してくるんですよ。

それを一気に飲んだら認めてくれたみたいで、遂に2階から教典の山を持ってきてくれて。30万くらいかな、持ち金を全部置いて全部買いましたね。

ー でも、持ち出すことが禁止されているんですよね。

浅葉克己 そう。100年前のものは見つかると全部没収らしい。リーさんと相談して、徹夜で一冊一冊新聞紙にくるんで、トランクに隠しました。紙は金属探知機に写らないから空港の検査を通ったんだけど、嬉しくて思わず「バンザーイ!」と言っちゃったら、すぐに怪しまれちゃって別室で身体検査を受けたけどね。

お気に入りはISSEY MIYAKE。

ー お気に入りの着こなしやファッションってありますか?

浅葉克己 帽子はよく被っていますね。おそらくボーイスカウトをやっていた影響じゃないかな。いつもビシっと制帽を被っていたからね。夏に一つ冬に一つ、大体ボルサリーノを買っています。洋服は三宅一生さんの服が99%。

三宅さんの服って毎年ガラっと変わるから、いわゆる「定番」ってのがないんですよ。常に新しい素材も多く取り入れているから動きやすく、気に入っていますね。

(急にカメラマンの方を向いて)ねえ、フィルムで撮ってるの? すごいね。(奥からゴソゴソ)これ知ってる? ワイドラックスというパノラマのカメラ。珍しいでしょ。はい、ちょっと並んでね。撮りますよ。パチ!

1日1図、毎日日記。

ー 最後に、浅葉さんがこれから挑戦したいことを聞きたいです。

浅葉克己 たくさんあるんだけど……、1日1図ですかね。読んで字の如く、毎日一つの図形を考えるんです。大抵1個でてくるとたくさん思いつくんだけどね。ただ、大概ベストなのは1個しかない。どんなに飲んだ日でも、フラフラしながらやっています。

ー ずっと続けているんですか?

浅葉克己 長いことやってますね。あともうひとつ。1日1図と同じくらい日記を書くことをずっとやってます。中学生の頃から続けているので、もう日記を書くための人生みたいになっちゃって。普通は人生のために日記があるんだけどね。日記って毎日書くことで人生の次の予定とか、今自分がやりたいことが見えてくるから、すごく大切なんですよ。

ー 毎日だと習慣になるまで大変そうです。

浅葉克己 そんなことないんです。しっかりと文章にする必要もなく、その日にやったことや思ったことを綴るだけでいい。中学の頃の日記を読むと、面白いんですよ。「今日は一生懸命寝たから早く起きた」とか「今日も一生懸命寝るぞ」とか。今よりも観察眼がすごいね。
もし書いていないんだったら、日記はすぐにでも書いた方がいいと思いますよ。僕のゼミの学生は全員書いてますから。寝る前に少しの時間でいいんです。「今日はどこそこに行った」でもいいし「アレに対してはこう思った」とか。それをコツコツ続けると、未来が見えてくるんです。


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