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加算額大幅増も貧困解決には遠く

増額後の児童扶養手当のイメージ

 ひとり親家庭への支援を拡充する改正児童扶養手当法が2日、参院本会議で可決、成立した。1人目(月4万2330円)は据え置くが、2人目以降の加算額が最大で倍増し、2人目は月5000円から1万円に、3人目以降は3000円から6000円となる。近年、縮小傾向だったひとり親世帯への現金給付が拡大することに、当事者からは歓迎の声が上がるが、とりわけ経済状況の厳しい母子家庭へは、なお、さまざまな支援が必要だ。【堀井恵里子、西田真季子】

    ひとり親 教育費に不安

     「10年前に手当を受け始め、初めての増額。ありがたい」。小学5年と同4年の男児2人を育てる福岡市の准看護師の女性(40)は喜ぶ。

     離婚した当時、息子たちは1歳5カ月と5カ月。「最初の1年はどう生きていたのか記憶がない」というほど必死な毎日だった。それでも食事や学用品など子どもに最低限、必要なものはそろえることを心に誓ってきた。

     現在は求職中。希望する平日のみの仕事なら、非正規の職しか見つかりそうになく、手取りは月13万〜14万円どまり。児童扶養手当が2人分満額(5万2330円)出ても月収は20万円程度だろう。

     今後の進路を考えると、息子たちを塾に通わせたい。手当の増額分は塾代に充てられたらと願う。しかし中学入学時、制服代などに6万〜8万円かかると聞いた。今から少しずつためておかないと費用を工面できそうにない。「増額分は貯金するしかないかな」とため息をつく。

     児童扶養手当法の改正を巡る国会審議では、4カ月分まとめて年3回支給する方法も議論になった。「まとめ支給」では毎月の収入にばらつきが出るため、家計管理が難しいとの指摘がある。准看護師の女性も4カ月先まで見通して、やりくりを考える日々に「家賃や光熱費も毎月払い。毎月支給になれば使いやすいのに」と話す。

     ひとり親を支援するNPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の赤石千衣子理事長は「例えば4月の次は8月まで支給がないため、食費のかかる夏休みに、ふりかけだけで過ごすという家族もいる」といい、支給を少しずつ前倒ししてほしいと訴える。

     民進党など一部野党は今年3月、毎月支給とする対案を提出した。野党案は否決されたが、改正手当法の付帯決議には「支給回数を含め、改善措置を検討する」などの文言が盛り込まれ、今後の課題とされた。

    養育費、受け取り2割

     今回の改正で増額対象となるのは、手当をもらえる子どもが複数いる家庭だ。改正法は8月施行で、8〜11月分が12月に支給される。また支給には所得制限がある。子ども3人の世帯では、満額受け取れるのは年収227万円未満の場合だ。年収が上がるにつれて減額され、年収が460万円以上ではもらえなくなる。

     このため増額対象は2人目が約33万世帯、3人目以降が約10万世帯で、手当を受ける106万世帯のうち4割にとどまる。満額受け取れるのも2人目で約6割、3人目以降で約8割だ。

     ひとり親世帯の相対的貧困率は54.6%(2012年)。子どものいる世帯全体の15.1%を大きく上回るが、厚生労働省の機械的な試算では、増額によるひとり親世帯の貧困率の改善は0.9ポイントに過ぎない。子どもの貧困問題の解決に向けては、さらなる支援策が求められる。

     ひとり親世帯の中でも、とりわけ経済的に厳しい母子家庭では手当などの公的支援に加え、父親からの養育費が生活を支える上で重要だ。しかし父親から養育費を受け取っている母子家庭は2割(11年)に過ぎない。行政による給与からの天引き制度などがある諸外国と比較して、日本では養育費の徴収や給付に、公的機関の関与が少ないことが指摘されている。

     東京都内の契約社員の女性(46)は18歳と14歳の子どもを育てているが、離婚後、元夫から一度も養育費を受け取ったことがない。18歳の長女は、今年3月末で手当の対象年齢から外れた。手当は14歳の長男の1人分のみ(月4万2330円)になり、今回の手当増額の恩恵もない。

     今春、長女は大学に進学し、学費の負担が重くのしかかるようになった。来春には長男の高校進学が控えている。女性の月給は手取りで約16万円。手当を含めても月収は20万円程度だ。

     長女のアルバイト代や母親(81)への借金でも足りず3月、元夫に養育費の支払いを求めて調停を申し立てた。しかし4月末にあった1回目の審判に、元夫は姿を現さなかった。離婚前から生活費を入れず逃げ回り、離婚調停の際も一度も呼び出しに応じなかった元夫が、養育費を支払うようになるかは分からない。

     女性は「正社員の働き口は見つからず、頑張っても収入には限界がある。国や行政は強制力や罰則を持って養育費を取り立てる方法を確立してほしい」と訴える。

    1人目から拡充を

     首都大学東京の子ども・若者貧困研究センター長の阿部彩教授の話 児童扶養手当の増額はよいが、1人目からの拡充をしないと貧困率は下がらないだろう。日本の養育費支払率は非常に低く、離婚を届け出る際に自治体でも養育費の取り決めがあるか確認したり、給料からの天引き制度や取り決めをしても払わない場合の強制徴収などを検討すべきだ。

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