ひねくれたまま読書感想文
【★1】ミミズクと夜の王(紅玉いづき)電撃文庫
【★1】ミミズクと夜の王(紅玉いづき)電撃文庫
題名:ミミズクと夜の王
作者:紅玉いづき
評価:★⭐⭐⭐⭐(駄作)
第13回電撃大賞<大賞>受賞作。
作者の紅玉いづきは中学生の頃から何年間も新人賞に投稿し続けていたが、全て落ちている。ほとんどが一次止まりだったらしい。だが、大学四年生の時に本作品でようやく念願のデビュー。
泣ける! 涙が止まらない! 号泣した! という好評が多い本作品。私は感涙ものが好きなので、本作品を読んでみた。
だが……
しかし……
本作品は……
今まで読んだラノベの中で一番酷かった。
もう一度言う。
今まで読んだラノベの中で一番酷かった。
読後、怒りで本を破り捨てそうになった(笑)
涙なんかアクビによるものしか出なかったな。
この作品を読んで、作者がなぜ新人賞に落ち続けていたかがわかるような気がした(ゴメンネ紅玉先生)。
最初は、Amazonや他のレビューサイトの高評価を見て「紅玉いづきすげー!」と思っていた。だが、読んでみたら高評価や帯の有川先生のコメントに騙されたと思うくらいの駄作であった。
金賞を受賞した扉の外や他の応募作が凄く可哀想に思えた(むしろ同年度電撃大賞の他の応募作のほうが出来は上かと)。
こんなのが1000作以上もの作品のトップクラスだなんて……うわあああああああとしか思えないね。(あ、なんか中傷になってきた)
はい、くだらない中傷まがいの発言はここまでにして。さっそく悪い点をぶったぎっていきます。(ちなみに、個人的に良い点はほとんど無いと思います。)
◼全体的に文章が酷い。中学生の作文レベル。
(作品は既にブックオフに売ってしまったので、セリフはうる覚えで)
「満月を見ていると、ミミズクの心も洗われていくようだった」➡なんか違和感を感じざるを得ない文章。文章がねじれてる?
「森の中のいくつもの障害をくぐって進んでいくと(以下省略)」➡障害じゃなくて、枝か蔦でよくないか?
「村の人たちは、ミミズクに痛いことしかしてくれなかった。(文章はそれだけで、詳細はなし)」➡「痛いこと」だけだと抽象的すぎてわからない。あと、「してくれなかった」とは何だ。僅かに喜んでる? ドMか?
「村の人たちはいつもミミズクに暴力を振るっていた」という文を冒頭に書き、次に何をされていたかを書けばより悲壮感漂う文章になったのでは?
「煉獄の炎に焼かれるような痛み」➡どんな痛みだよ。
「牧歌的な青空は(以下省略)」➡普通に青空でよくないか?
このように、説明不足な情景描写や無駄に飾った表現がかなり在り、非常に読みにくい。その上、たまに文章の捻れや接続詞のおかしい文章もあったりした。プロとは思えない文章力の無さだ。
◼ミミズクの死にたがりや設定が全く役に立っていない。
とある村で奴隷として働いていたミミズクは、村人たちから虐待されていた。だが、ある日(盗賊だったかな?)に村を襲撃にされ、ミミズクは命からがら逃げ出す。日々の虐待で心がボロボロになり死にたがっていたミミズクは、夜の森に入り込み、魔物に自分を食べてもらおうと望む。そこで魔王の『夜の王』に出会い、彼に自分を食べてくれと告げるが、夜の王は人間が嫌いでミミズクを拒絶する。そこで、ミミズクは夜の王に気に入ってもらうため森から綺麗なものを取ってきて彼に渡すのであった。
これが序盤のあらすじである。
だが、残念なことにミミズクの死にたがりや設定はあまりにもお粗末だった。その理由を書いていく。
ミミズクは、一話、二話までは散々死にたいよ私を食べてよと言っていた。なのに、二話後半か三話に出てくる湖のシーン(ここからキャラの急な心変わりが始まる)では突然「どこかには良い人もいるんじゃないのかな。その人に会いたい」と言い出す。
あれ? 先程までの自殺願望はどこへ行ったんですか? その心境に至る過程なんか今までなかったぞ?
じゃあ、湖のシーンの前の展開はどうだったって? まとめると……。
ミミズク、森の中を進んで夜の王のところへ行くが、即行「来るな」と言われて眠らされ、クロ(森の魔物)に助けられる➡根城に勝手に行ったら殺されるぞとクロから警告されるも、こりずに翌日ミミズクはまた忍び込む➡夜の王、態度は冷たいがちょっとだけ話す、でも結局すぐにミミズクを眠らせて追い出す➡ミミズク、夜の王に気に入られるため煉獄の花を彼に渡す。夜の王、花で絵の具を作るもどこかへ行ってしまう➡クロが「お前はまた許された」と謎の言葉を言う。
このように、ミミズクが死の欲望から開放される展開など、どこにもない。
それに、ミミズクは人間から虐待されて、人間と世界に絶望して死にたかったのでは? なぜ理由もなく人間にあっさりと心を開いたの? というか、そう思っていたなら始めから夜の森になんか行かず人のいるところに行けよ! と突っ込みたくなった。
そしてもっと残念なご都合展開が。
中盤、夜の王は人間に囚われてしまい、ミミズクは人間の街で目が覚める。この時、ミミズクは夜の王に魔法をかけられて、夜の森に居たときの記憶だけを失っている。当然、奴隷として生きた日々の記憶はある。
だが、人間に囲まれて、オリエッタ(脇役)の乳母(だったかな?)が「夜の王に囚われて怖かっただろうね」と言って泣く。その涙を見て、ミミズクは「人の涙って温かいな」と思う。
もう一度言う。ミミズクは人間から虐待されて、人間と世界に絶望して死にたかったのでは? どうしてこうなった。なぜ人間に心を開いた? なぜ人間が怖くないのか?
それはミミズクの心が純粋だから、と言ってしまえば話は簡単だ。だがこれではあまりにも都合が良すぎる。あまりにも……。
しまいには、オリエッタと聖剣士アンデューク(脇役)とちょっと街で遊んだだけでミミズクの胸に「生きたい」という欲望が芽生える。もう、なんなんだよ。しかも、記憶を無くしてからなぜかやたらと常識人化してきてるし(夜の森では「ミミズクはー死にたいんでーす」みたいなアホの子の口調だったのに、人間たちが出て来てから急激に普通の女の子に進化していく。特に理由もなく)
◼夜の王の心変わりが都合良すぎる。
一話、二話ではミミズクを拒絶しまくり、ミミズクが自分の根城に入り込んで来たときはとりあえず話すも態度はとても冷たい。なのに、湖のシーンではミミズクの両腕についてある手枷を見て「そんなものを付けていて重くないのか?」とやたらフレンドリーに話しかける。そして何故かミミズクの手にペタペタ触りやがる。(でも、友達になってはいない)
前の展開(上記のまとめ通り)では、まだまだ冷たい態度だったのに、なんだこの変わり様!? 前後の展開の温度差が激しすぎる!
確か、直前のページではミミズクが綺麗なものをたくさん持っていったという短く簡素的な説明(だけで過程は書かれていない。夜の王がミミズクのその行動に対してどう接したかも書かれていない)があったが、それで心を開いたのか? え、それだけで?
しかも、夜の王のミミズクに対する気持ちが一切書かれていないので、尚更都合がいいように思える。
あんまりだ。適当に短い説明だけをして、はい、これで心を開きましたー! なんていうのは素人でもできる!
それだけではない。この後もっと酷いご都合展開が待ち受けている。
夜の王(夜の森の話の途中から、夜の王はミミズクからフクロウというあだ名で呼ばれる)は人間に囚われている間、ミミズクと会うことはなかった。
後に、夜の王はミミズクたちとその他脇役によって救出される。その後、なぜか夜の王はミミズクとラブラブに!
ええええ、待てよ! 湖のシーンではまだ友達ですらなかったのに! しかも、囚われていた時ミミズクとは一回も会っていなかったんだぞ!
なんて都合がいいんだ!
最後には、足の不自由な王子クローディアスの足を魔法で治してあげるなど……いつのまにか人間に心を開いてしまっている。どこで人間を好きになったんだよ?
◼王子はなぜ初対面のミミズクと友達になりたいと言ったのか?
クローディアスは、初対面のミミズクにいきなり「僕は君と友達になりたいんだ」と言い出す。しかも、ミミズクに友達申請をするために城へ呼び出したのだという。足が不自由で城から出られないとはいえ、会ったことのない、触れ合ったことのない人といきなり友達になりたいと思うか?
まぁ、ここでクローディアスにそう言わせておかないとクローディアスの出番が無くなるからね。わざとそうしたんだろう。
◼夜の森の魔物と人間の関係性がよくわからない。
第二話で国際情勢を語る二人の人物がでてきて、途中で「魔王捕獲作戦」の話をする。しかし、国際情勢のことも、魔王捕獲作戦の詳細もその後は完全放置。これには呆れて物が言えなかった。
だが、魔王がなぜ捕獲されたのかを匂わせる会話文が登場する。レッドアーク(ミミズクがいる国)の王様は「魔王は子供たちの脅威になっている」と言い、オリエッタは「魔王は子供をさらって食べる」と言っている。つまり、子供たちがこれ以上食い殺されないように魔王を捕まえるのが捕獲作戦の趣旨であると想像できる。
しかし、魔物のクロは「魔物(イエリ)は人を喰わんよ」と言っていた。これは大きな矛盾では? それに、夜の王は湖のシーンで「人間を食べるなどヘドが出る」とか言っていたし。夜の森や根城には子供の死骸なんかなかったし。
作者、ちゃんとプロット練っていたのか? 設定が酷すぎないか?
◼アンデュークとクローディアスの会話、王様とアンデュークの会話は不要。
中盤後半で、この二組が会話をするシーンがある。
クローディアスは足が不自由なことで冷遇されている怒りをアンデュークに言う。アンデュークはクローディアスを助けてやれと王様に言う。だが、会話の内容が全く後の展開に影響していない。
しかも、クローディアスの足が不自由なことで冷たくされている辛さや悲しみが普段からどのような形で現されているかなんて一切書かれていないので、クローディアスに感情移入はできない。アンデュークのクローディアスに対する思いもほとんど「かわいそー」という上部の感情でしかない。
そんな薄っぺらいお互いの感情をぶつけ合って、はい終わり。短編集かよ!
しかも、アンデュークは王様と会話している時「僕は君と友達になりたいだけだ」とため口で言う。馬鹿かこいつと思った。
◼ほとんどのキャラの設定や心理描写が薄っぺらい。
ミミズクと夜の王の心理描写も設定そうだが、クローディアスの足が不自由なため冷たくされている設定も全く役に立っていないし、アンデュークの聖剣なんか作中で使われていなくて意味無い。オリエッタは、最後の方で子供ができない身体だからと言ってミミズクを養子にしたいと望む以外ほとんど役立たず。王様なんか何のためにいるのかわからないくらい物語に不要な人物だし。ただ単に可哀想な人たちを寄せ集めただけ、な印象しかない。
それに、みんな中盤までは夜の王を危険視していたのに、救出する時以外会ったともないのに、最後のほうで彼と友達みたいになってしまっている。いくらミミズクが夜の王と仲良くしているとはいえ、それに軽々しく乗るか? 不意討ちを食らう危機感くらい感じたらどうだ?(笑)
キャラが変にいい人なんだよな。なんか人間味をまったく感じられない。悪くいえば作者の操り人形みたいな。
以上で悪い点の記述を終える。
◼評価の分かれ目
このように、接合性のない都合のいい展開ばかりが連続で出てくる。出来の悪いケータイ小説を読まされているような気分だった。
だが、この「接合性のない都合のいい展開ばかりが連続で出てくる」点をどう受けとるかで、本作品の評価は大きく変わるだろう。
「どうしてキャラがそのように心変わりしたのかを想像で補って楽しむ」のが本作品の特徴だと思えば、楽しめるだろうし。
私みたいに「キャラが都合良く心変わりしすぎ! 話が都合良く飛び過ぎ! なんじゃこりゃ!」と思えば駄作にしか思えないだろうし。
そこは人それぞれだろう。
ちなみに、私がなぜ後者のような考え方をしたのかといえば……。
説明不足な&急なキャラの心変わりを想像で補って楽しむ必要性が、本作品からは一切感じられないからだ。
ミステリーならこの手法は許されると思う。だが、この作品は、不器用な人々の交流を描いた友情モノだ(と私は受け取っている)。作中にミステリー要素はほとんど無いし、心変わりの過程を読者に想像させラストでどんでん返しを食らわせることもない(ラストは夜の王にみんなが心を開き、ミミズクと夜の王は森へ帰ってはいおしまい)
だから、心変わりを想像で補う必要性はどこにもない。
では、なぜ作者はこのようなストーリー構成にしたのか。
それは、単なる作者の力量不足ゆえではなかろうか。
作者は、このキャラは後でこういう心境に至ることを想定していたが、重要なその過程を書くことができなかった。だから、そこは読者に想像してもらおうと決めた。
そのため、上記で挙げてきた数々のご都合展開満載の作品になってしまった。と私は思う。
それにしても、選考員はよくこの穴だらけな展開、設定、心理描写を無視できたものだ。まさか、キャラの心変わりを読者に想像させてもいいと思っていたのだろうか。
だとしたら、プロットなんて適当でいいし、都合の良い展開で継ぎ接ぎにストーリーを進めていいぞ! と言っていることになる。
新人賞だから粗削りでよい(本作品はほとんどが粗削りだが)と思った、ということだろうか。そうでなければその選考員たちはどうかしている!
◼なぜこれが大賞なのか? についての考察
何でこれが大賞受賞? これが……こんな作品が……売れる見込みある……だと? シンジラレナーイ。
まぁ、確かに最後の最後のページの発行部数を見ると……結構増刷されてますね。売れてるんだな、こ、れ、が……これが……? ヨソウガイデース。
そうだなぁ。たぶん、内容の質と売れやすさはイコールではないのだと思う。ドラマ、映画化された某人気ケータイ小説を例に上げるとわかりやすいか。
あのケータイ小説も、ある特定の読者層からは号泣! 泣いた! と支持されてる。でも、他の読者層からは酷評、酷評、酷評……。
これは私のつまらない偏見と予想だが……。つまり、本作品の読者層は普段から本を読まない方(なんとなく、偏見で)や、上記で挙げた「登場人物の心の変化を想像で補って楽しめる方」なのでは? 本作品を高評価している方々は、おそらくこの読者層に分類されると思う。
ラノベはあまり本を読まない方向けでもあるし、かくいう私もラノベを読んで読書が趣味になった。
普段から読書しない派をラノベの世界に引き込んだ、彼らの支持を得たというのであれば、この作品はある意味成功、なのかね。
まぁ、人それぞれの読書の楽しみ方があるし、「なんでこれが!? はぁ!?」といつまでもグチグチ喚くのはみっともないかもしれない。
◼最後に
文句なしの★1判定にする。
作者は本作品を「安い話だ」とあとがきで書いていたが、私にとっては「チラシの裏に書いた妄想話」のようにしか感じられなかった。
本当に残念な作品だ。