ストーリーや概要にはさほどふれず、おもに映画「ズートピア」の感想だけを書いてみます。内容は良かった点をひとつと、満点じゃない理由についてです。
なまけもののフラッシュ(画像右)にずっこけたw
ありがちな擬人化を逆手に
これまでピクサーも含めたディズニーのアニメーション長編映画には、あまりリアルな人間を主役にせず、擬人化したキャラクターによるカートゥーンもの、みたいなイメージが強かったです。特に3DCGの登場以降、主役と言えばおもちゃ、恐竜、動物、魚、車、ロボットなどの擬人化キャラクターってイメージでした。
参考までに。
アメリカのCGアニメにおけるメインキャラの表を転載してみます ↓
1995年から2010年までのCGアニメ全66作のうち、主役が人間のみの作品は17作品(26%)となります。
(増田弘道著:「もっとわかるアニメビジネス」より)
しかしズートピアの場合、そのありがちな擬人化を逆手(さかて)に取り、意図的に擬人化じゃないと描きづらいテーマに挑んだ気がして、そこが映画で一番良かったポイントでした。
肉食&草食動物の対立はアメリカの縮図
象徴的だったのが肉食&草食動物の対立の描き方。
たとえば草食動物が抱く肉食動物に対する恐れ(ズートピアならウサギのジュディが抱くキツネに対する恐怖)は、人間が持つぬぐいがたい違う人種や別な宗教に対する根源的な恐怖を、映画では草食&肉食の動物によって擬人化したものなのでしょう。アメリカならば白人の持っている黒人への恐怖ですし、宗教でいうならばキリスト教徒のムスリム(イスラム教徒)に対する恐怖とも言い替え可能だと思います。
また草食動物サイドもただ黙って肉食動物に怯えるだけでは済まさず。
ズートピア誕生よりもはるか太古、肉食動物が本来持っていた野性の凶暴性をわざと呼び覚まし、その姿によって肉食に対する草食動物の本能的な恐怖を呼び起こすという戦術をとっていました。野性を引き出させ恐怖によって肉食排斥運動へとつなげる戦術。トランプ氏にもどこか通じるような現実社会さながらの展開で、うまいなぁと思わず唸るプロットでした。そのあたりが逆手と感じた点です。
つまり、どうせ擬人化ばかりならば、リアルな人間を用いてしまうとあまりに生々しくて重くなり過ぎるテーマを逆に扱おうじゃないか。そんな発想を感じたというのか。アメリカ人がこの映画を見たならば、
ズートピアは現代アメリカのまさに縮図。
おそらくそう感じたんでしょうね。また、他国の人にも共通する普遍的テーマになっていると思います。
もちろん作品本来のメインテーマは、そういった人種・宗教の違いを乗り越えるにはまず自分から、みたいなものだったとは思いますが、私としてはその前段階、ありがちな擬人化を逆手に取り、擬人化じゃないと描きづらいテーマに挑んだことが映画で良かったポイントでした。
ディズニー映画が個人的満点を取らない理由
以下、思いっきり主観的な話になりますが今度は一点減点の理由について。
記事タイトルにあるように、5つ星でいくならズートピアは★★★★☆(星4つ)。ピクサーでもディズニーでも、たいがいの作品は良くても悪くても星4つぐらいってイメージが強いです。星5つの例外は「トイ・ストーリー」シリーズぐらいかなぁ。
ここで自分が言う星とは作品の完成度や客観的な評価のことではなく、主観的なハマり具合や夢中になった度合いを星であらわしたものです。言いかえればパクッと食いついたかどうかの話。映画視聴中は面白いなぁ、すごいなぁ、ウマいなぁ…… そんな事を感じつつ、冷めるのもまた早いことが多い。映画がハズれることはレアケースながら、視聴後もどハマりで頭がお祭り状態が続くような作品に出会うことはほぼ皆無というのか。
その理由を考えてみると、やはりどの作品も似たり寄ったりなんでしょうね。
たとえば映画にたくさん出てくるアイデア群も、かつてどこかで何度も見たようなアイデアが多いというのか。さまざまな映画のいいとこどりを、1.2倍速で見ているような印象を持つことが多いです。
そういった印象を抱く原因を突き詰めて考えていくと、理由はオリジナリティの無さに帰結するような気がします。その作品ならではのオリジナルな雰囲気を感じることはあまり多くない。それがディズニー映画が個人的な満点を取らない理由じゃないかって気がします。ほんと個人的な趣味の話ですが。
それとまあディズニーサイドの方も、そういった強いオリジナリティは最初から狙っていない気がします。プロの精鋭によって計算に計算を尽くしエンタメ作品としての完成度を究極に高める。そのあたりがディズニーの戦略かなぁって気がします。あくまでキッズファミリー向け作品からはみ出すことなく高みを目指す。そんなふうに思います。
(所長のボゴはアフリカスイギュウとのことなので、実は草食系?)
最後に
ディズニーのアニメーション長編映画には、視聴前からおそらく星4つだろうなーみたいな印象があったりします。そんななかでズートピアは、これまでの殻を破ろうとする新たなチャレンジを感じた作品でもありました。それが擬人化の逆手。ディズニーも現状に慢心せず新たに前へとチャレンジをしているんですね。
また逆算による伏線の張り方、無駄にしないキーアイテムと途中のエピソード、決め台詞を応用した使い方などいかにもプロの精鋭による仕事だなぁと。そしてその結果、逆に似たり寄ったりにもなるんでしょうね。
ということで。
以上映画「ズートピア」の感想でした。
いろいろと勉強になる思いが強かったです。
うん、日本のアニメ派な私は、おそらくどこかライバル作品を見るような思いで少し引いた視点で映画を見てるんでしょうね。
ははっ
最後の最後で自分の心理に気づいちゃいました。
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映画「ズートピア」(Zootopia)
2016年公開作品(108分)
監督・原案:リッチ・ムーア、バイロン・ハワード
脚本:ジャレッド・ブッシュ、フィル・ジョンストン
製作総指揮:ジョン・ラセター
製作会社:ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ、ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオ
製作費が1億5千万ドルで、興収が9億ドル超だとか。
桁が違うわ……
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