日比の防衛協力 既成事実が積み上がる
日本とフィリピンが防衛協力を強化している。その新たな形として、海上自衛隊の中古の練習用航空機がフィリピン海軍に貸与される。両政府が近く合意する予定だ。
他国軍に防衛装備品を直接、渡すことは、これまでの防衛協力から大きく踏み込むものだ。
日本は最近、南シナ海の沿岸国に、海自の艦船を頻繁に寄港させている。さらに共同訓練や能力構築支援を強化している。フィリピンやベトナムの海洋安全保障分野での能力を高め、自衛隊の存在感を示すことで、南シナ海の軍事拠点化を進める中国をけん制する狙いがある。
練習機の貸与もその一環で、南シナ海で警戒・監視などに使われる。
だが、南シナ海の問題に日本が軍事的にどこまで関わるかという基本的な枠組みが国民に知らされないまま、既成事実だけが積み上がっていないだろうか。
貸与される海自の練習機TC90は、フィリピン軍機に比べ、航続距離が倍近い1870キロに延び、南沙諸島の大部分をカバーできるという。最大5機を短期の有償貸し付け(リース)で、今年度中に引き渡す。
民間のビジネスジェット機がベースになっているTC90には、武器も警戒・監視レーダーもついていない。目視で監視活動をし、写真を撮って帰って来るといった使い方になる。それでも、将来、レーダーを搭載すれば偵察も可能になるだろう。
中古の練習機とはいえ、軍用機である。フィリピンに対しては、すでに政府開発援助(ODA)で沿岸警備隊に巡視艇10隻を供与することが決まっている。ただ、ODAは非軍事分野に限られるため、今回は使えない。そこで、2014年に条件付きで武器輸出を原則解禁した「防衛装備移転三原則」にもとづき、貸与される。
新三原則にもとづく防衛装備品の共同開発はこれまでもあったが、完成品を渡すのは初のケースになる。
両政府は、装備品の移転の前提になる協定をすでに締結済みだ。協定は、日本の事前同意なしにフィリピンが第三国に装備品を移転することや目的外使用を禁じている。だが、確実に守られる保証はない。フィリピンの受け入れ態勢も、日本のチェック態勢も十分には見えない。
さらに日本はマレーシアやインドネシアとも装備品の移転協定の締結に向けた交渉をしている。
南シナ海での中国けん制を理由に、なし崩し的に沿岸国への軍事援助が拡大しかねない。
多くの問題を含んでいるのに、国会でもほとんど議論がなされていない。民主的な統制の基本に立ち返っての議論が必要だ。