最近、”プランクチャレンジ”という言葉をよく耳にする。1ヶ月、最初は30秒からスタートして徐々に時間を増やしていき、最終的には5分間、プランクを行うというものだ。プランク自体、体幹スタビリティを鍛えるエクササイズの基礎であり、これが出来て始めて難易度の高い体幹スタビリティエクササイズが行える。
そんな素晴らしいプランクと言う種目だが、体幹トレがちょっとしたブームになったからか、少し過剰評価されている様に見える。プランクだけやっていれば、キレイなクビレを手に入れられる、腹筋が割れるなどと効果を謳うが、プランクに限らず”〇〇だけ”は体つくりにおいてありえない。また間違ったプランクを説明しているネット記事も散見される。
ブームに水を差すわけではないが、せっかくなので正しくプランクを行うために知っておきたい知識や、プランクを行う際に気をつけたいポイントなどを、ぼくなりにまとめて記事にしたので最後まで読んでいただけたらありがたい。
プランクとは?
上の写真のような姿勢をキープする体幹スタビリティ(安定性)の基礎となるエクササイズ。具体的にはAnterior Core(腰椎の過伸展に抵抗する力)を向上する。このような動きを伴わない(筋肉の長さが変化しない)筋収縮をアイソメトリック筋収縮と言う。(日本語では等尺性筋収縮)
たとえば壁を思い切り押しても壁は動かないので筋肉の長さは変化しないが、筋力は発揮している。このようなトレーニングがアイソメトリック筋トレーニングとなる。反対に腕立て伏せのように動きを伴ったエクササイズをダイナミックエクササイズなどと呼んだりする。
プランク・ブームへの注意喚起
プランク自体は有用な種目だが注意しなければならない点もあるので関連の用語などを説明しながら注意点を解説したいと思う。
筋収縮の簡単な分類
プランクについての記事だが、この先の説明をしっかりと理解するために筋収縮の分類につい簡単に説明をしておきたい。
コンセントリック・コントラクション
筋肉が短くなりながら力を発揮する。例をあげると、懸垂で上に上がるとき、腕立て伏せで上昇するときなどはコンセントリック収縮を起こしている。車で言ったらアクセルの働きをしている。
エキセントリック・コントラクション
筋肉が伸張しながら力を発揮する。懸垂で下がるときや、腕立て伏せで下るときにエキセントリック収縮を起こす。いわば、ブレーキの筋力。ボディビル系のトレーニーは”ネガティブ局面”と呼んだりもする。
アイソメトリック・コントラクション
筋肉の長さは変化しないで筋力を発揮する。姿勢を保っていられるのはこの筋収縮があるから。プランクもアイソメトリック収縮に分類される。
ちなみに筋肉痛はエキセントリック筋収縮が引き起こす。
プランクだけで身体は変わらない
多くのブログやダイエット系サイトで、プランクをやれば太らない、引き締まったお腹を手に入れられる、等と謳っているがプランクはあくまで数あるエクササイズの中の1種目に過ぎない。確かに効果的なエクササイズだが、魔法の運動のように取り上げられているのには違和感がある。あくまでプランクは体幹スタビリティ向上のエクササイズというのが、ぼくの中での位置づけだ。
ダイエット効果に関しても消費カロリーを考えると、アイソメトリックに身体を固めるプランクより、エキセントリック&コンセントリック、つまりダイナミックな動きを伴ったエクササイズのほうが効率的だ。筋肥大の効率も当然ダイナミックエクササイズの方が効率が良い。プランクチャレンジがダメだと言うことではなく、プランクだけで身体が変わるという”思考”に対して注意をしたい。
”効いている”を信じてはいけない
ある運動を評価するとき”効いている”と言う感覚が重要視される事が多い。しかしこの考え方はやめたほうが良い。効いている=効率的なトレーニングでは無い。多くの場合、この効いていると言う感覚は”キツイ”とか”難しい”に置き換えられるのではないだろうか?もし効いている≒キツイ=効率的なトレーニングが成立するなら、腕立て伏せ10000回、腹筋600000回が効率的なトレーニングとなるが、当然そんなわけはない。さすがに極端すぎる例だが、トレーニングに関しては自分の感覚より、科学を信じるべきだ。
同じような理屈で筋肉痛=良いトレーニングと言う思考もやめた方がいい。先に書いたように筋肉痛はエキセントリック・コントラクションが引き起こすのでエキセントリック局面を強調すれば、激しい筋肉痛を作ることは簡単に出来る。
プランクが人気になっている一つの要因としてこの”効いている”という感覚が強いからではないかとぼくは考えている。見た目以上にキツイので他のトレーニングよりダイエット効果や筋肉を鍛える効果が高いと思われがちだが、上で書いた通りアイソメトリックに体を固めるエクササイズはダイエット効果や筋肥大に効率的とは言えない。あくまでも体幹スタビリティエクササイズの基礎と認識してほしい。
ドローインを併用するという間違ったアドバイス
少し前から”ドローイン”というお腹を引っ込ませる動きが効果的だと話題にあがるようになった。腹横筋をピンポイントで鍛えられると謳っている。腹横筋だけを鍛えるメリットはあるのか?そもそも腹横筋をアイソレート出来るのか?と言う疑問がある。
ドローイン単体で実施する分にはそこまで問題は無いと思うが、トレーニング中にドローインをするとトレーニング効果がアップするというメチャクチャなアドバイスがされているのは問題だ。
プランク中はお尻が下がり腰椎が過伸展するのを防ぐために、しっかりとお腹に力を入れる必要がある。その為には腹横筋だけではなく、お腹周りの筋肉をより多く収縮させる必要がある。その時のお腹の力の入れ方は”ブレイシング”が正解だ。
ブレイシングとはお腹にパンチされるときの力の入れ方と考えてもらいばいい。お腹をへこましてパンチを受けたらどうなるかを考えれば、ドローインとブレイシングのどちらが腰椎周りを固めるか?答えは出るはずだ。それを証明する研究を1つ紹介したい。
Thieme E-Journals - International Journal of Sports Medicine / Abstract
この論文に出ているIAPとは腹腔内の圧力のこと。これが高い方が脊柱をしっかりと支える力を発揮できるという事になる。ちなみにHollowing=ドローイン。
結果は△IAPmaxがブレイシング116.4±15.0mmHg ドローイン9.9±4.5mmHg
とブレイシングが圧倒的に腹腔内圧を高めるのに有効という結果が出ている。
腰を痛めないためにもしっかりとお腹に力を入れてプランクを実施して欲しい。
正しくプランクを行うための6つのキュー
プランクを実施する際に気を付けるべきポイントをまとめる。それほど多くは無いので書かれたポイントに気を付ければほとんどの人が正しくプランクを実施できるはずだ。
- しっかりとお尻に力を入れる。(お尻でクルミを割る感覚)これで骨盤の前傾(お尻が下がる)によって腰椎が過伸展するのを防げる。
- お腹にしっかりと力を入れる。(お腹にパンチされるイメージ)
- 太ももに力を入れて膝を真っ直ぐに保つ
- 肘で床をしっかりと押す
- 顎を引いて下を見る(二重顎を作る感じ)
- 後頭部、背中、お尻が一直線になるように意識する(上の項目が出来ていれば自然になっているはず)
以上の点に注意して、正しくプランク・チャレンジを行ってほしい。
プランク・チャレンジを完遂出来たら運動習慣は付いたも同然
ここまでプランク・チャレンジに対して否定的な意見を書いてきたが、それはあくまでも”プランクだけ行っていればいい”と言う思考とそのような説明をする人間に対してだ。プランク自体は非常に効果的な種目である事は間違いない。
これまで運動の習慣がなかった人達が運動習慣を付けるためにプランク・チャレンジは非常に有用ではないかと個人的には考えている。最初は30秒でも辛かったプランクが日を重ねるごとに楽になって行くのがわかるはずだ。つまりスピードに差はあれど、誰でもトレーニングを行えば身体は強くなるという事だ。その感覚がわかると運動がより楽しくなる。30日間、続けることが出来たら立派なトレーニーだ。是非、プランクだけでなくさまざまな運動の習慣を続けて、強く、健康的で綺麗な身体を目指してほしい。