オリンパスが2日に発表した2016年3月期連結決算は前の期の赤字から一転、黒字に転換し、08年3月以来8年ぶりに過去最高益を更新した。主力事業に成長した医療部門に経営資源を集中したことが奏功した。17年3月期も増益を見込むが、課題はある。医療部門の収益は現在、世界で7割以上のシェアを握る「消化器内視鏡」に頼っている側面がある。安定飛行を続けるには新たな成長の軸を準備する必要がある。オリンパスはそれを「外科手術」に見いだそうとしている。
16年3月期の純利益は625億円となった。前の期は87億円の赤字だった。売上高は前の期比5%増の8045億円。17年3月期の純利益は650億円と4%増になると予想する。為替の円高が売上高を530億円、営業利益を220億円押し下げるが、営業外収支の改善などによって増益となる見通しだ。
オリンパスは1950年に胃カメラの試作機開発に成功して以来、消化器内視鏡に強みを持つ。11年の不正会計事件発覚や、デジタルカメラなど映像事業の市場飽和といった逆境の中で、消化器内視鏡を中心とした医療事業はオリンパスの屋台骨を支えてきた。ただ、医療事業の売上高の56%を消化器内視鏡が占め、依存度の高さは否めない。
そのため、3月末に発表した中期経営計画で消化器内視鏡に加えて、今後、外科用内視鏡や電気メスなど外科手術の分野を拡大する戦略を示している。こうした器具を使った手術は開腹を伴う従来の手術と比べて患者の体力的な負担を軽減できる。将来の成長が見込まれる分野だが、こちらのオリンパスのシェアはまだ世界で20~25%程度。ドイツのカールストルツ、米国のストライカーを追う立場だ。
1つのレンズでは遠近感をつかみにくい。不正会計事件でどん底に落ちたオリンパスだが、完全復活に向け、「消化器内視鏡」と「外科手術」という2つのレンズで未来を望むことができれば視界はさらに開ける。高精細の「4K」映像を実現した新しい外科手術向けの内視鏡をソニーと開発するなど、技術面で巻き返そうとしているが、医療機器業界の営業は医者や医療機関と信頼関係を築くために相当な時間をかける必要がある。単純に技術だけでシェアを奪うのは簡単ではないということは、医療機関向けサービスを手厚くし、消化器内視鏡で圧倒的な地位を守っているオリンパス自身がよく知っているはずだ。
(湯田昌之)