「それまでフジテレビの強みだった庶民感覚や仲間意識が失われたのが、お台場への社屋移転です。
日本を代表する建築家・丹下健三設計、総工費1350億円の新社屋で働いているうちに、徐々に社員の意識が変わってきてしまった。“俺たちは、業界のリーディング・カンパニーに勤める一流社員だぞ”というような。恥ずかしながら、これは私自身の当時の実感でもあります。どうしても意識は環境に左右されます。そんな人間が作る番組が、世間の生活感覚から乖離するのは時間の問題でした」
さらに追い討ちをかけたのが、2011年8月に起きた「韓流びいき批判」デモだという。
「これは全くの見当違いで、フジテレビとしてはとばっちりもいいところ。韓流コンテンツは当時比較的安く購入できるうえに視聴率もよく、コストパフォーマンスが高い。決してフジテレビが反日なのではなく、単純な経済原理に従っただけ。
全くの誤解だったわけですが、フジテレビに対する不満や鬱屈がこれを機に爆発してしまったように思います。デモの数カ月前に東日本大震災が発生しているのも偶然ではないでしょう。フジテレビが叩かれたのは、震災の影響で社会の雰囲気がシビアになる中、相変わらず仲間内で楽しそうにはしゃぐ“一流社員たち”に対する苛立ちや鬱憤もあったはずです。
ところが、フジテレビはこうしたバッシングへの対応を誤ったと思います。それを警告と捉え、叩かれる理由を徹底的に分析し、その結果を社内で共有して対処していれば、もしかしたら“復活”のきっかけとなったかもしれません。フジテレビは自らを省みるチャンスを逸したのです」
そう吉野氏が語るように、2011年以降、フジテレビは各時間帯の年間視聴率でトップを獲得していない。さらにテレビ朝日やTBSの後塵を拝し、民放第4位に転落することも。はたしてフジテレビは、吉野氏が指摘するような“ズレ”を埋め、再び業界のトップに返り咲く日は来るのだろうか――。
デイリー新潮編集部
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