米大統領選の共和党候補指名争いでリードするドナルド・トランプ氏。(米国とメキシコの国境に)壁を建設し、その費用をメキシコに払わせるという話とほぼ同じくらい、中国に夢中になっている。ほとんど衝動的にスピーチの随所に中国への言及をちりばめ、米国をだまし、ごまかしていると批判したかと思えば、自分は本当に中国を「愛している」と訴える。
奇妙に思えるかもしれないが、中国もトランプ氏に好意を抱いているように見える。国家主義で普段は反米的な政府系新聞、環球時報が先月(3月)実施した世論調査では、調査対象のちょうど半分あまりがトランプ氏を好意的に受け止めていた。これをトランプ氏自身の国と比較してみるといい。米国では、ワシントン・ポスト紙とABCニュースの先週(4月半ば)の世論調査でトランプ氏を好意的に見ていた人は調査対象者の3分の1にとどまった。
もし選択肢を与えられたら、権威主義的な中国は自由の地である米国よりトランプ氏を大統領に選出する可能性が高いのだろうか。事実を言えば――そして、これは虚栄心の強いリアリティーテレビのスターにとっては、恐らく少々つらいことだろうが――中国人の大多数はトランプ氏を聞いたこともない。
トランプ氏がどれほど取るに足りない存在か知りたければ、今の中国の指導者の名前を言える米国の一般市民がどれほど少ないか考えてみるといいだろう。そこへ、メディアが共産党によって厳重に統制され、グーグルやツイッター、フェイスブック、ユーチューブといった欧米のウェブサイトが「グレート・ファイアウオール」と呼ばれる検閲体制によって遮断されている事実を加えればいい。
創普(中国語でトランプの意)実業というトイレ会社――10年以上にわたり、「三重呵護、倍享尊栄(三重のケア、喜び二倍)」というスローガンの下で「トランプ」ブランドの高級便器を生産してきた中国南部のメーカー――の創業者でさえ、昨年までトランプ氏のことを一切知らなかったと話している。
中国のプロパガンダ組織がたまにトランプ氏に言及する場面では、大抵、同氏が予想に反して政治的に台頭していることを、西側の民主主義が抱える全ての問題の一例として利用している。
■トランプ氏の評価に慎重
はっきりものを言う中国財政相の楼継偉氏がトランプ氏を「不合理なタイプ」と評するまで、中国政府は慎重に、同氏とその派手な大統領選出馬について公式に論評することを避けてきた。楼氏はウォール・ストリート・ジャーナル紙とのインタビューでさらに踏み込み、米国がトランプ氏の提案した対中貿易政策を推進するとしたら、米国は「世界のリーダーである資格がない」と言った。