熊本地震の発生から半月がすぎ、専門家による調査やデータ解析から「連鎖地震」の姿が少しずつ見えてきた。強い地震が相次ぎ震源が広域化した理由として、地下にかかる力の変化や別々とみられた断層が一つにつながっていたなど3つの可能性が浮上している。火山地帯の地質やひずみの蓄積など熊本・大分地域の特徴の影響も考えられ、様々な要因を見極めながら分析する必要がある。
熊本地方では、4月14日にマグニチュード(M)6.5、16日にM7.3の地震が起き、ともに最大震度7を記録した。政府の地震調査委員会によると、14日の前震は日奈久(ひなぐ)断層帯、16日の本震は布田川(ふたがわ)断層帯が震源だ。その後、阿蘇地方や大分県にも飛び火するように震源域が広がった。
東北大学の遠田晋次教授らは、理由として地下にかかる力の変化を挙げる。内陸直下型地震は長い時間をかけて活断層にひずみがたまり、耐えきれなくなってずれることで発生する。ある断層がずれた結果、周辺の地下の力のバランスが崩れ、別の断層が地震を起こしやすくなることがある。1992年、米カリフォルニア州で起きたランダース地震も、40キロメートル離れた場所で数時間後に強い地震が連鎖した。
大分から熊本にかけて広がる別府―島原地溝帯の付近では、南北に地盤が引っ張られる力などが働く。布田川断層帯にもひずみが蓄積していたとみられ、前震によって「大きな力を受けた」(産業技術総合研究所の吾妻崇主任研究員)ことで、16日に限界に達して本震が起きた。遠田教授は前震による地下の力の変化で「布田川断層帯で地震が起きやすくなっていた」と分析する。
その後、阿蘇地方や大分県など北東方向に連鎖が広がった。震源域は約100キロメートルに及び、専門家も「見たことがない現象」と指摘したが、遠田教授の解析では本震後、震源の北東方向で地震が起きやすくなる力の変化が生じた。加えて「火山が近い地域では地震が誘発されやすい」という。
前震の震源となった日奈久断層帯と本震が起きた布田川断層帯は別々ととらえられている。しかし、名古屋大学の鈴木康弘教授は「一続きの断層帯とみるべきだ」と指摘する。地震調査委も2013年までは全長約100キロメートルのひとまとまりの断層帯とみなしていた。
同じ断層帯とすれば、前震の際に動かなかった「割れ残り」が生じたことになる。これが動いたのが本震で、前震との関連がより明確になる。
阿蘇地方では、布田川断層帯の北東の延長線上付近で地震が多発している。同断層帯は想定よりも北東に延び、阿蘇山のカルデラに達していたことがわかった。こうした状況から、北東方向にひずみが伝わりやすかった可能性もある。
防災科学技術研究所の分析によると、本震の揺れが続く間に大分県で別の地震が誘発された可能性がある。本震の揺れが由布市などで観測された十数秒後に、一段と地震が大きくなる現象が見つかった。付近の別府―万年山(はねやま)断層帯もひずみが蓄積していたとみられ、本震の地震波の到達が「最後の一押し」となったと考えられる。大分県ではその後、この地震から誘発された可能性のある余震が多発し、4月29日にも震度5強の揺れを観測した。
九州と同様ひずみが蓄積しやすく活断層が密集する地域は他にもある。活火山に近い地域では地震が連動しやすいという研究もあり、地域的な特徴を考慮しながら解明作業を進める必要がある。