2016-05-01
■2016年 4月に観た映画

「あなたの携帯にウィルスが入って、遅くなってます!」という恐ろしいメッセージがスマホに出て、言われるがままに色々インストールしたらインターフェイスが変わってしまい、パニック中。
『バンクシー・ダズ・ニューヨーク』
バンクシーがNYのあちらこちらに日替わりで作品を残していった一ヶ月を追うドキュメンタリー。バンクシーは本来価値が無いものに価値を加えていくというアートフォームで、二束三文に狂騒する人々を作り出す。そのアートフォームは現在の経済システムや虚業の富豪たちを嘲笑っているのだろう。バンクシーのNY連作が収められているという点で貴重な記録だが、ドキュメンタリーとしてはとっちらかって散漫な印象。5ポインツとの対比がもっと上手にいってれば。
『LOVE 3D』
監督はギャスパー・ノエなので、もちろん生々しいセックスを3Dで見せるという露悪的な発想で作られているのは確かなのだが、物語は今まで以上に内省的。だが、自傷に見せかけた、他の誰かへのあてつけでもあるだろう。どうすることも出来ない生まれついての才能や感覚をセクシャリティに投影する。セクシャリティが修練で身につけられるものでは無いように、芸術的なセンスも生まれついてのものだと突きつけるのだ。
『ボーダーライン』
秘密だらけで何も教えてもらえないまま、銃撃や殺戮に投じられるエミリー・ブラントは観客の感情移入対象なんだろうけど、我々はそこまで映画に杓子定規な正義の規範は求めていない。むしろ「殺っちまえ!」と拳を振り上げている。なので「そこで意地はったって何の意味も無いじゃん!」と常に思いながら、CIAの作戦に帯同していくハメになる。終盤でマグマの様にたぎる男の物語へ移行するのが慌しい。
『ルーム』
奇妙な性癖を持った男の被害に会う女性が、困難に立ち向かっていくというのがスティーブン・キングの皆既日食連作「ドロレス・クレイボーン」「ジェラルドのゲーム」に似た感じ。しかし、後半に訪れるジャック少年無双こそが、本作の高い評価と各映画賞をもたらしているのは明白だ。もう、観客全員泣いてた。映画館がしゃくりあげてた。
『コップ・カー』
今月の一等賞。ケビベーTシャツも買ってしまった。こどもが汚い大人からマシンに乗って猛スピードで逃げる映画。って、つまりはニューシネマか? かつて『スピード』を撮り終わったヤン・デボンが調子こいて「手漕ぎボートでもサスペンスを演出できる」と嘯いたそうだが、本作では車を100マイル/h(140キロくらい。アメリカの高速では珍しい速さでもない)で走らせるだけで、猛烈な感動を起こす。
『スポットライト 世紀のスクープ』
今年のアカデミー賞作品賞。カトリック教会の犯罪を暴く新聞記者の戦い。しかし、暴力的な脅しがあるとか、謎の暗殺者に狙われるといった劇的な対決は無い。それなりに妨害もあるが、戦いの最大の相手は新聞記者としての矜持だ。あまりに強大な相手の不正を暴くことで、世界レベルで影響を与えてしまうし、身近な人々の信仰心に傷を与えかねない。そんな静かな戦いに参戦することになった記者たちの熱がヒンヤリとしたトーンの画面でコントラストとなって浮かび上がる。平坦な景色に僅かな起伏をつけて大自然を表現する日本庭園の様なわびさびムービー。
『レヴェナント 蘇えりし者』
『八甲田山』の撮影で、俳優の準備も整っていないのに、真冬の池の中にジャブジャブ突っ込んでいって水に浸かってカメラ構えている木村大作の鬼気迫る様子に、エキストラ全員「……この現場やべえ……」と戦々恐々とした、その空気が映画に収められている。という逸話に似た、ルベツキの狂気とデカプの執念のアカデミー賞であろう。ちなみに『八甲田山』の現場で、やることもなく樫の木と話をして仕上げた脚本を映画化したのが橋本忍の『幻の湖』。キチガイばっかりの現場。ちなみに、デカプが生きた魚をかじる場面を一部のアメリカ人たちが「エクストリーム・スシ・モーメント」と呼んでいるそうだ。
『アイ・アム・ア・ヒーロー』
ゾンビ演出はかなり面白い。ゾンビ・パンデミックで平穏な社会がひっちゃかめっちゃかにひっくり返る感じは本当に素晴らしい。クライマックスの大殺戮大会も見事としか言い様が無い。しかし、ゾンビが出ていない場面全てがダメだった。臭いセリフと臭い演技は、いわゆる「ダメな邦画」の見本みたいなダメさ。もちろん「ゾンビ映画」の「ゾンビ描写」が良いんだから、という気持ちもあるけれど、なんというか。こだわりの生地と厳選したトマトソースと極上のチーズで作ったピザに乗ったサラミが腐ってるしカビ生えてるような台無し感。もったいない。
『ズートピア』
フルCGの動物アニメながら、閑職に追いやられたウサギの警察官とキツネの詐欺師が、裏社会にも渡りをつけて事件を追っていくという『ロング・グッドバイ』や『インヒアレント・ヴァイス』を思わせる不良探偵ものになっている。しかもテーマは人種差別だ。ブッといテーマのフィルム・ノワールを動物アニメでコーティングして子供に見せようというという発想がスゴイ。
『シビル・ウォー キャプテン・アメリカ』
MCU新作。予告だけでも充分興奮したのに、さらなるサプライズを用意してしまう過剰サービスにノックアウト。サプライズだらけの終盤決戦はもちろん、スパイダーマン参入エピソードで史上最高にセクシーなメイおばさん登場にはアゴが外れた。仲間割れという湿気の多い辛さをキャップの高潔な童貞スピリッツが救う。
『Bajirao Mastani』
去年の私のベストで挙げた『ラームとリーラ 銃弾の饗宴』監督と主演2人の新作。インドでは『スターウォーズ フォースの覚醒』の方が、この作品上映を避けて上映をずらしたというほどの期待作。それも納得のセットや衣装の美しさ。「目を奪われる」とは正にこの映画のこと。しかし、基本的にはお家騒動なので陰湿なやりとりがメインの会話劇になってしまっている。すっごい美しい世界の中、すっごい美しい男女が、ストレスで内臓溶けるような会話を続けるというマゾ映画。
『Airlift』
1990年サダム・フセインのクウェート侵攻で、帰れなくなったインド人たち16,000人の脱出を描く。『シンドラーのリスト』『杉原千畝』系映画のインド版。侵攻前の裕福な暮らしから一転、侵攻が始まり略奪と殺戮の場となるクウェートの様子がゲーム「コール・オブ・デューティ4 モダン・ウォーフェア」オープニング的にワンカットで展開していく“地獄絵図”がスゴイ。
『Wazir』
テロリストに娘を殺された対テロ組織の隊員と、とある理由で娘を亡くした老人の頭脳ゲーム…… っぽい感じの、実はあんまり頭脳関係ない戦い。思わせぶりにチェス盤を出して、IQ高そうな謎を解決しつつ、最終的にはド派手に大混戦というのは、ジェラルド・バトラーの『完全なる報復』だね。『ミルカ』のファルハーン・アクタル主演、インドの至宝アミターブ・バッチャン共演。最近短くなってきたインド映画の中でも90分ちょっとという、かなり短いインド映画。
『ポルターガイスト』(リメイク)
いったいどこのバカがスティーブン・スピルバーグと、トビー・フーパーがタッグを組んで作った映画をリメイクしようと思ったのだろうか?
『インシディアス 序章』
老いて肉体的には弱々しいが強い霊能力を持つ者と、技術面でバックアップする若者研究者というのは『ポルターガイスト』だねぇ。チーム結成までのエピソード・ゼロ。逆恨みな幽霊の呪いと、亡くした肉親のあの世からの愛がセットの定番の幽霊譚。無理やりヒネリ出した感は否めない。
『絶叫のオペラ座へようこそ』
ホラー・ミュージカルだが、ロックっぽさは無く、いわゆるミュージカル調の歌。しかし、ホラー描写には気合いが感じられる。端々にツメの甘さやテンポが崩れる場面もあるが意欲的な部分は充分汲めるし、それなりに楽しい仕上がりになっているのも好印象。
『パージ』
ようやく鑑賞。「金持ち憎し!」が狡猾に脚本に落とし込まれている。『ハンガーゲーム』同様に「こんなにイヤな制度が施行された世界で、嬉々として参加する人と嫌々参加せざるをえなくなった人の対決」を描きつつ「嫌々参加した人」に感情移入させて「嬉々として参加」したい気持ちを満足させる。「金持ちぶっ殺したいよな!」という製作者の声に、ヒットさせて「イェ−!」と答えるボンクラたち、という図式。イェ〜〜!
『パージ アナーキー』
続編。パージの舞台を街に移したら、モロに『ニューヨーク1997』みたいな脱出劇になったよ、という感じなんだけど、スネーク・プリスキンいないと、こんなに締まりが無いねえ。及第点のアクション映画という程度で、何もすることが無い休日にぴったりな作品。
『救世主伝説 ザ・タイガー』
ガエル・ガルシア・ベルナル主演。アルゼンチンのジャングルで農業を営む貧乏親子と使用人の3人の元へ、地上げ屋8人くらいがやってくる。その時、一人の男がフラリと現れて貧乏一家に加勢する。という『七人の侍』を、極限までソリッドに刈り込んだ話。途中でベルナルがハッパ吸って異世界と交信し始めたり、何の前触れも無くトラが加勢したり。と、説明するとオモシロそうだが、実際はかなり眠い。
『ワイルド・スピード SKY MISSION』
3作目あたりからレンタルで済ませて、それまでは「相応しいな」と思ってたんだけど、これは大後悔。物語が完全に機能不全なのに面白く出来ているのは発明的だと言っても良い。ヴィン・ディーゼル軍団の目的は「ステイサムを探すための衛星ハッキング用のデバイスの奪取」。それを邪魔しに来るのがステイサム。しかも何度も! 探す必要無いじゃん! もはやマクガフィンですらない。けど面白い! RIPポール・ウォーカー。
『マンホール』
下水調査のため、なぜか秘密裏に調査を請け負った修繕人が、下水の吹き溜まりみたいな箇所に閉じ込められてしまう。という何から何までババッチイ映画。見どころは主人公の腐敗進行。最終的に日野日出志「蔵六の奇病」状態になるのがなかなかの鳥肌もの。クリストファー・ノーランが『悪魔の毒々モンスター』をリメイクしたらこうなるのだろうなぁ、という映画。
『マーシュランド』
スペインのミステリー映画。余計な場面が全く無い編集が神がかっている。登場人物たちの動きのテンポやカメラの動きはゆっくりしているのに、必要な場面だけが延々と続いて、サスペンスを一つづつ積み上げていくので、目が離せない。老獪なじじい刑事と若い実直な刑事という常套的なペアにも途中でヒネリを入れてくるので安心できない。