欧米企業によるOSS(Open Source Software)の導入事例が増えている。だが彼らも必ずしもOSSのプログラミングに携わっているわけでもないという。今なぜ、OSSへの注目が集まっているのか。米ガートナー リサーチのバイス プレジデントで、データセンターの近代化/統合や、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)およびプロセス改善に詳しいレイ・パケット(Raymond Paquet)氏に聞いた。(聞き手は志度 昌宏=IT Leaders編集部)
デジタルイノベーションへの取り組みが世界中の課題になっている。そして企業にとってイノベーションの根本はソフトウェアによるものだ。そのソフトウェアの中で今、動きが最も活発なのがOSS(Open Source Software)である。
IT業界では15〜20年の周期で新たなプラットフォームが台頭している。そこでは新たなリーダーが登場し、新たな方法論が主流になってくる。現時点の最新プラットフォームはクラウドであり、それと共に台頭している方法論がアジャイルやDevOps(開発と運用の融合)でありOSSなのだ。OSSはソフトウェアの将来モデルである。
GoogleやAWSが対峙する規模感の差がイノベーションを生む
ガートナーは近年、情報システムや企業には大きく二つの流儀があるとする「バイモーダル(2つの流儀)」を提唱している。安定性や信頼性を重視する「モード1」と、顧客へのサービス提供を重視する「モード2」だ。これからの成長機会はモード2にあるが、IT部門がこれまで携わり長年投資してきた情報システムやソフトウェアがモード2の要件に合致しているとは言えない。
このモード2に正対するために大手のクラウド事業者は、以前なら解決しなくても良かったような課題に直面している。より柔軟な拡張性(スケーラビリティ)の確保や各種の自動化、大規模データの管理などなどだ。一般企業はまだ、これらの課題を実感していないかもしれないが、モード2では避けられない課題である。
しかし、米Googleなどはこうした課題を解決し各種のサービスを全世界に向けて提供している。そのためにGoogleでは、例えば1人の運用管理者が3000台のサーバーを運用しているが、一般企業のIT部門ではせいぜい80台程度だろう。こうした規模感の違いがイノベーションにつながっていく。
OSSコミュニティーがコードを進化させる
そして、GoogleやAWS(Amazon Web Services)、米Facebookなどがイノベーションを引き起こすために開発したソフトウェアが公開されることでOSSが成長している。彼らが自らのサービスを実現し差異化を図るために開発したコードをOSSコミュニティーがブラッシュアップし運用性が高めることで、一般企業も利用できるようになってきたとも言える。
OSSコミュニティーでは、多くのプログラマが開発したコードの中から、最善のコードだけが選ばれ利用されていく。いわゆる「ダーウィンの進化論」のようにコードが成長する。これに対しプロプライエタリなソフトウェアの世界ではどうだっただろうか。同様の機能を実現するために各社が独自のコードを作成し、それぞれが各社の製品/機能として流通させる。利用者からみれば、導入を決めた製品のコードが最善かどうかは判断できない。
一般企業でもモード2の領域を中心にOSSへのシフトが始まっている。投資銀行などが先行集団を走る。コスト削減よりも、OSSによってイノベーションを起こしビジネス上の課題を解決したいという想いのほうが強い。Googleのモデルにならいたいというわけだ。Facebookとともに米Goldman Sachsが参加・投資しリードする「Open Compute Project」といった動きもある。ただし、モード2に取り組まないリスクはあるが、OSSは必須というわけではない。
OSSシフトに動く企業には大きく2つに分けられる。1つは、Linuxを導入済みの企業群。OSSを受け入れやすいことは容易に想像できるだろう。もう1つは、ビッグデータやデータアナリティクスに積極的な企業群だ。データ分析基盤としてHadoopを採用したのをきっかけに他のOSSを導入するようになる。
ソースコードに対しては2つの選択肢がある。自らコードを開発するか、誰がそのコードを書いたかを突き止めることだ。後者のスタンスでも自らはコードを書かなくてもバグを修正することはできる。
外注モデルとOSSの利用は相反しない
日本企業の場合、システム構築やプログラム開発を外注しているケースが多い。とはいえ外注モデルとOSSの利用は相反するものではない。ITサービス事業者がOSSコミュニティーに参画し、テクノロジーに触れていくのであれば一般企業のOSS対応は進められる。
ただOSSコミュニティーに参画するためには、コードを書くというエンジニアリングスキルだけでは不十分だ。コミュニケーションやコラボレーションといった別のスキルも求められる。日本文化は元々コミュニティー中心のはずだから、OSSの文化にも溶け込めるのではないだろうか。