文/小野展克(嘉悦大学教授)
日銀は4月28日の金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決めた。追加緩和への期待が充満していた市場は黒田日銀の肩透かしを受け、円高・株安が一気に進む大荒れの展開となった。
物価上昇の勢いは衰え、成長率も鈍化、デフレ脱却への道は険しくなっている。この日の決定会合で物価目標の達成時期を「2017年度中」に先送ることを余儀なくされた。
7月の参院選挙をにらみ、政府と呼吸を合わせつつ、日銀の独自性をアピールするなら、今回の決定会合は追加緩和に踏み切る絶妙のタイミングだったはずだ。
では、なぜ黒田東彦総裁は追加緩和を見送ったのか。そこには異次元緩和を拡大させることへの恐怖があるのか、それとも手詰まりなのか、はたまた安倍首相へのメッセージと周到な戦略が潜んでいるのか―。『黒田日銀 最後の賭け』の著者・小野展克氏が検証する。
異次元緩和の限界
「日本の潜在成長率は異次元緩和を導入してからも0.5~1.0%のまま。ほとんどの要因は技術進歩。労働人口が伸びない中、設備投資による資本ストックの拡大も進んでいない。これで2%も物価を上昇させるには無理がある」
ある日銀幹部は、こう嘆き、異次元緩和の限界を指摘する。
2013年春に黒田が異次元緩和を導入してから大きく円安・株高が進み、失業率も低下した。
しかし今春闘の賃金の伸びは鈍化、消費も足踏み状態で、企業の設備投資も勢いを欠く。黒田日銀が指標とするコアCPI(生鮮食品を除く消費者物価指数)もゼロ近辺に沈んでいる。投資家や消費者が予測する期待物価上昇率も腰折れしつつあり、黒田が狙った「物価観の転換」は想定通りには進んでいない。
異次元緩和が企業経営者のアニマルスピリットを刺激、イノベーションが生まれ、潜在成長率を押し上げるという黒田のシナリオは、うまく作動していない。企業や個人にはデフレマインドが染みついたままなのだ。
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