田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 日本銀行の金融政策決定会合が4月27、28日の両日に行われた。その結果は、熊本・大分地震への対応を除けば、ゼロ回答に等しく、日本銀行のインフレ目標の到達を先送りするというマイナス材料までも提供したものだった。本連載でも書いたように、今回の政策決定会合でより強力な金融緩和政策を実施すべきだったが、日本銀行の対応は失望するに値するものであった。

 エコノミストやアナリストの多くが、今回の日本銀行の追加緩和の動きを予想していたし、市場でもその観測が根強かった。そのために日本銀行の事実上のゼロ回答は、株式市場と為替レート市場に強い衝撃を与えた。一瞬ではあるが、日経平均株価は1000円以上の暴落、また為替レートのドル円で2円以上通貨安に大きく振れた。結局、東京市場は前日比624円安で引け、この原稿を書いている時点(4月29日朝)では1ドル108円台と多少の落ち着きは取り戻している段階である。ただし日本銀行の政策決定の「驚き」は、世界市場にも拡大した。株価は現状ではやや戻しつつあるが、ニューヨーク証券取引所のダウ平均株価も大きく下落、上海総合指数も下落した。市場が予期しない形で金融政策が変化することは、必ずしも悪いことばかりではないが、今回の「無策」に応じた予期せざるショックは、ただでさえ不安定化していた株価や為替レートに好ましくない影響を与えたことだけは確かである。
下げ幅がことし4番目の大きさとなった日経平均株価の終値を示すボード=4月28日午後、東京・八重洲
下げ幅がことし4番目の大きさとなった日経平均株価の終値を示すボード=4月28日午後、東京・八重洲
 今回の日本銀行の金融政策「無策」への予測は、何人かの論者から出ていた。それぞれ傾聴に値するので簡単に紹介していこう。まず日銀の元審議委員である中原伸之氏は、ブルームバーグの報道(4月26日 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-04-26/O68AMX6JTSE801)によれば、インタビューの中で「日銀はいまは動く必要がない(と安倍首相は思っている)」と語ったという。特にその理由は、マイナス金利政策の効果が現れるのと見届けるべきだということと、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合物価指数が2月公表段階で前年同月比0.8%の上昇(最新では0.7%)であること、また中原氏によれば一ドル110円台の為替レートは「居心地がいい水準」であることも理由にあげている。