南阿蘇鉄道、廃線の危機
地震復旧費、見通しなく
2016/5/2 06:00
熊本地震で被災した南阿蘇鉄道。阿蘇大橋近くの立野駅周辺では、ゆがんだ線路を大量の土砂が覆った=4月17日(南阿蘇鉄道提供) 熊本地震で被災し、全線運休中の第三セクター南阿蘇鉄道(熊本県高森町)が廃線の危機に立たされている。運行再開には1年以上かかるとみられ、30億~50億円に上る復旧費用の確保も見通しが立たない。災害で大きな打撃を被るのは、経営基盤の弱いローカル線共通の事情。秋田、茨城など三セク鉄道4社が支援切符を販売し、仲間の苦境を助けようとする動きも出てきた。
南阿蘇鉄道は1986年、旧国鉄高森線を継承して開業した。営業距離は高森駅と立野駅(南阿蘇村)を結ぶ17・7キロ。阿蘇山の麓を走るトロッコ列車や、日本一長い駅名の「南阿蘇水の生まれる里白水高原駅」が全国の鉄道ファンに親しまれている。地元では主に熊本市や大津町、阿蘇市の高校や病院へ通う生徒、高齢者が利用している。
震度7を記録した4月16日の地震で、線路の一部が土砂で埋まったほか、鉄橋の梁がゆがむなどの被害を受けた。復旧費用について、同社は「地震までは赤字続きながらも経営は安定していた。だが、復旧への資金的な余力はない」と説明。高森町も「沿線自治体で協力して支援したいが、被害の大きい南阿蘇村に資金提供を頼むのは難しい」と頭を悩ませる。
運休で通学客を中心に影響が出ている。大津町にある二つの県立高校は25日に授業を再開したが、交通手段が無く、登校できていない沿線の生徒が計100人以上いるという。町内の県立翔陽高校1年高木椎名さん(15)=南阿蘇村=は「鉄道が使えなければ家の車で回り道し、長い時間かけて通わなければならない。大津町に家族で移り住んで通学する話も出ている」と話す。
災害の影響で廃線に追い込まれるローカル線は珍しくない。2005年の台風で被災、運休した宮崎県の高千穂鉄道は08年に廃線。青森県の十和田観光電鉄も東日本大震災の影響で収益が悪化し、12年に廃線した。
南阿蘇鉄道の現状を見かねて、由利高原鉄道(秋田県由利本荘市)、ひたちなか海浜鉄道(茨城県ひたちなか市)、いすみ鉄道(千葉県大多喜町)、若桜鉄道(鳥取県若桜町)は4月29日から「復興祈念切符」を売り出した。南阿蘇鉄道の乗車券と、4社の駅入場券を1セット千円で販売し、このうち700円を支援金に回す。ひたちなか海浜鉄道の担当者は「東日本大震災では、いすみ鉄道から支援を受けた。金額はわずかだが、同じような形でお役に立てれば」としている。
南阿蘇鉄道は義援金を受け付けている。詳しくは総務課、電話0967(62)1219。