印南敦史 - コミュニケーション,スタディ,仕事術,書評 06:30 AM
あがらず噛まずに話すために必要なこと
人前で話すということは、人が社会の中で成長していく過程で、誰もが通過しなければならない関門です。人はデキるようになると、人前に立たなければならないのです。仕事でも仕事外でも。(中略)優れた能力を持っていたとしても、人前で話すのが精一杯では、周囲から正しく評価されません。その能力自体が自信なく聞こえるからです。人は「何を話すか」ではなく、「どう話すか」で評価されるのです。(「はじめに」より)
そう主張するのは、『あがってしまうシーンでも相手にきちんと伝わる「話し方」の授業』(高津和彦著、日本実業出版社)の著者。フリーアナウンサー・通訳を経て、さまざまな分野で活躍する人々の話し方を指導してきたという人物です。そんなキャリアがあるからこそ、多くの人に「苦手」を「できる」にして、最終的には「すごい」といわれるようになってほしいのだとか。
きょうは「いい話し方の実践編」だという「The second section」から、相手にきちんと伝えるためのポイントをピックアップしてみたいと思います。ここでは著者が主宰する「ベストスピーカー®/ベストプレゼン」の講座に寄せられた疑問や質問を、心理面から分析したトレーニング法を紹介しているのだそうです。
「あがり症」克服トレーニング
自分のことを「あがり症」だという人は、決して少なくありません。少しでも聞き手からの"圧力"を感じたら、すぐに「あがり症」のせいにしてしまうというのです。しかし、それは病気でもなんでもなく、「ちょっとした傾向」でしかないのだと著者はいいます。だから、絶対になおるのだとも。
「あがる」とは、なにもしていないのに、その場の圧力に負けている感じがしてしまうこと。つまり、そんな負の圧力が「あがる」原因なのだということです。いわば「自分の体から外に出る圧力」vs.「場・他人から自分にかかってくる圧力」ということになるわけで、自分自身が外に圧力をかけて「勝つ」のか、外から圧力をかけられて「負ける」→「あがる」に転ぶかの差だというのです。
そこで、あがらないようになるには「気で勝つ」ことが必要。もちろん暴力的な意味ではなく、揺るがない「上に立てる気」を持つべきだということ。だとすれば"自信"が必要となるはずですが、それは成功体験によってのみ生まれるもの。「これができたんだから、あれもできる」という確信が求められるわけです。
自分をあがり症だと自覚している人の多くは声が小さいものなので、発声練習が必要。まず声のベースづくりを優先させるべきだということで、そのためにここでは「ひとり1分間スピーチトレーニング」が紹介されています。ビギナーから上級者までが幅広くできる、1分間「なんでもいいから話を続ける」トレーニングだといいます。
1. 60秒を計時するため、秒針のある時計を用意。
2. 全身が映る鏡があればベター。最初はなしでも問題はないものの、自分で自分の話す姿を見ることは重要。なぜなら本番では、聞き手は自分のことを見ているものだから。聞き手の眼に映るであろう自分の姿を、自分自身で見ておくわけです。
3. 1分間話せる「お題」を決める。「好きな食べ物」「明日なにをするか」など簡単なものでOK。決めたら「決めた!」と声に出すといいそうです。
4. 話のはじめは、「え~それではですね、好きな食べ物についてお話しさせていただきたいと思います」などと気の抜けた文ではじめないことが重要。自分オリジナルの文を考え、力強く発声できるように。
5. 重要なのは、「強く思い、強くいう」体質をつくること。人前でブレている姿を見たい人はいないので、もしなにもなかったとしても、「食べ物に好き嫌いはない。なんでも感謝して食べるべきだ!」などスパッといえば、聞き手はその後も聴きたくなるということ。
6. 途中で話題がなくなったら、なんでもいいから考える。関連を探し、話題を広げる。それでもなくなってしまったら、「さて、話は飛びますが」と、自信を持って別の話に切り替える。とにかく声を出し続けることが、このトレーニングでは大事だそうです。
7. 55秒まできたら、「まとめます! ~は~です!」ときっちり文末までいう。60秒を少々過ぎてもかまわないそうです。中途半端で終わらせず、話をまとめて最後までしっかり声を出すことが大切。
8. テレビをつけて音声を大きめにし、その音の上をいく声を出すのもいいとか。ニュースを読むアナウンサーの声に負けず、いい負かすくらいの気持ちで。番組内容に影響されず、1分間しっかり話すことが重要だそうです。
9. 話し相手の目から、絶対に目を離さない。目を話すことは、疑義、忘却、散漫、拒絶といった印象を与えるので注意が必要。
10. 声を張り、身振り手振りを活発に。自分はこれで「気」を出せているかと、鏡を見て自分に問いかける。上達すると、自分の姿を肯定的に見られるようになるといいます。
11. この1分間スピーチを1日5セット実行すること。それでもわずか5分です。
12. 上達すれば、場所や相手に関係なく1分間話せるようになるまでがんばるべき。やらないと、いつまでたってもハードルは高いままですが、1回やると確実に下がってくるといいます。
このトレーニングをすれば必ず上達し、「あがる」ことが次第になくなっていくと著者は断言しています。なにより、一歩を踏み出すことが大事だというのです。(96ページより)
滑舌がよくなる方法
話が聞き取りにくいと、すぐに「滑舌」のせいにする人が多いと著者は指摘します。しかし問題はそこではなく、大事なのは声の大きさだというのです。「聞き返される」「わからないといわれる」ことはほとんどが声のボリュームの問題なので、まずは「声を出すこと」からはじめるべきだといいます。
著者によれば、理想の声の大きさは、「話すという意思が表れている」最低限の大きさ。いいかえれば、きっちり相手に聞こえなければならないわけです。ポイントは、必要と思われる声よりも大きめにすること。理由は、それが話し手の「意思」を感じさせるから。
そこで、まず最初に行うべきは、我流でかまわないので「ア~」と10秒間、大きな声を出すこと。部屋を締め切り、外に声が漏れないようにして、出せる最大の声を出すのだとか。車のなかやカラオケボックスもおすすめだそうです。声が出せないのであれば、滑舌がよくなる練習をしても無意味。まず、しっかりとした声が出せることが大前提だというわけです。
そして、そんな考え方を軸として紹介されているのは、ベストスピーカー・メソッドにおける滑舌トレーニングの基本原理。まず解説されているのは、子音と母音との関係です。なぜなら日本語は原則として、子音のあとに必ず母音がついてくるのが特徴だから。
母音は音の出口であり、口の形は母音の形に正しく開けることが大切。「あ」は口を、指が3本入るくらいに開ける。「い」は口元に縦じわが出るくらいに、横に引っぱる。「う」は唇を前方向に突き出す。「え」は「い」の口の状態から顎を下げる。「お」は「う」の口の状態から顎を下げる。これら5つが、音の最後の形。
対する子音は音の入口で、ポイントは強調して発音すること。たとえば「さ」は、「さぁ~」とではなく、「サッ!」と発音するべき。滑舌がよく聞こえるコツは、子音と母音をきっちり発音すること。たとえば「さ」なら、「S」を強調したあとで「A」といったら、縦に指3本が入る形で終わる。同様に「め」ならば、「M」の子音を強調したあと、「E」の形で終える。このように子音と母音がきっちりできていれば、滑舌がいいといえるそうです。(112ページより)
噛まない方法
スピーチなどの席で、それまで流暢に話していた人が、一転してポロポロと噛みまくることがあります。しかしそれは、その人の身体的問題ではまったくなく、すべては心理的問題なのだと著者はいいます。
原因として考えられる第一は、原稿を丸暗記して話そうとすること。丸暗記すると「書いたとおりにいわなくてはならない」と脳に規制がかかってしまうわけです。逆に「好きにやっていいよ」といわれると、心が解放されて負担が軽減し、余裕が生まれるとか。
2つ目の原因は、使い慣れない言葉で話すこと。普段はあまり使わないような言葉を使うと「うまくいわなくては」という気持ちが生じ、その一瞬の躊躇が「噛む」原因になるというのです。
3つ目の原因は、心理的圧迫。緊張感に襲われるわけで、そうなってしまうのは、どこででもパッとしゃべれるような自分をつくっていないから。誰にも聞かれない場所を見つけ、独り言で練習することが大切だそうです。
そして最後の原因は、「いいなおしたい」と考えてしまうこと。真面目で誠実な人に多いそうですが、ちょっと言葉の選択を間違えたと感じたら、即座にいいなおしてしまう。いい切ることができないからこそ、それが緊張感につながるわけです。
噛まないための大原則は、いちばん使い慣れた「普段の言葉を使う」こと。原稿を書かない、おぼえない、筋道だけを描いておく。不安なら要点のメモを用意し、人の目を見て語りかける。1対1の会話のように話すことが大切だといいます。そして、普段は使いもしない言葉や、噛みそうな言葉を最初から使わないことも重要だとか。
では、噛んでしまったらどうすればいいのでしょうか? 大切なのは、無視して次に行くことだといいます。「噛んだ!」という意識が倍増されると、心が動揺するもの。そして、いいなおすことは、話の流れに大きく水をさすもの。しかし噛んでも噛まなくても、文の意味にたいした違いはないので、いいなおすことなく、何事もなかったかのようにサッと次に進むことが大切だということです。(119ページより)
決して難しくなく、むしろシンプルな内容。読み終えたころには、話し方、伝え方のコツが自然と身についているかもしれません。
(印南敦史)
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