僕が昔、ニューヨークの投資銀行に勤めていた時代、トレーダー達の間で静かに流行していたのがタイプライターのキーをリサイクルしたカフリンクスでした。
キーボードのキーの種類だけバリエーションがあるわけですから、単にタイプライター・キーのカフリンクスというだけではなくて、そこに刻印されている文字が何か? ということが問題になるわけです。
普通なら、自分のイニシャル、僕の場合なら「T」、「H」を選ぶと思うのです。でもバリバリの株式トレーダーは、そういうダサいことはしません。
彼らが珍重したのは、分数のカフリンクスです。
「1/2」、「1/4」、「5/8」などです。

これはどうしてか? というと、昔、米国株の株価は分数で刻まれていたからです。たとえば13 1/8という感じです。これは13.125ドルの意味です。
誰かが新しく手に入れた分数のカフリンクスを会社につけてくると、めざとく気がついた別のトレーダーが「よお、おまえさんのカフリンクス、イケてるな」とすべてを了解した賛辞を送るわけです。
株式トレーディングは、1990年代終盤までは、分数との戦いだったのです。
日本人は「アメリカ人は算数ができない」と馬鹿にします。
僕も、彼らを馬鹿にしていました(笑)
ところが、日本人が逆立ちしても勝てないアメリカ人の暗算能力というのがあって、それは分数の世界です。
その理由は、アメリカ人はアメリカン・フットボールなどを通じて普段からクォーターとかスリー・クォーターなどの概念に慣れているからで、そういう分数を聞いただけでビジュアルにその分数の持つ分量をイメージすることができるからです。
(そんなバカな)
皆さんはそう思うかもしれません。
でも突然、「Which is bigger, a quarter or five sixteenth?」と英語で訊かれたら、1秒で即答できる日本人は少ない筈です。
「a quarter」は1/4、「five sixteenth」は5/16です。すると5/16の方が大きいわけです。
僕がアメリカ株の世界に入ったときは、株価は「クォーター刻み」でした。
というわけです。ところがほどなくそれが「ワン・エイス刻み」に変更されました。
です。「クォーター刻み」に比べて、細かい刻みになっているのがわかります。さらにそれが「ワン・シクスティーンス刻み」へと変更されました。
どうですか? くそ面倒臭いでしょう(笑)
なぜこんなコトをうだうだ説明するか? と言えば、株式トレーディングのBid/Ask、つまり買いの気配、売りの気配を立てる際、この分数が刻み幅になるからです。すると1/4の刻み幅と1/16の刻み幅ではスプレッドが4分の1になったことを意味します。
ナスダック銘柄は、昔はブローカーに払われる委託手数料報酬は建値に「込み」になっていました。つまりこのスプレッドが、コミッションだったわけです。
するとスプレッドが4分の1になったということは委託手数料率が4分の1になるのと同じです。
だからトレーダーの間では「1/2」や「1/4」のカフリンクスの方が「5/8」のカフリンクスより「縁起がいい」のです。
その後、一時は1/32毎の刻みが使用されたけど、とうとうデシマライゼーション、つまり小数化、すなわち0.01などが用いられるようになり、分数文化は根絶してしまったのです。
金融サービスにコンピュータを持ち込み、どんどん効率化するということは、トランザクション(取引)をフリクションレス(摩擦なし)にすることを目指しており、それはたいへんケッコーな事です。
でもそれがフリクションレスになればなるほど、マージンは圧迫されるし、胴元のうま味は無くなります。
これは「フィンテック、フィンテック!」と嬉しがっている金融機関の経営者全員が、良く考えるべき問題です。
逆に言えばフィンテックのスタートアップは、その技術力が凄いからといって、ただそれだけの理由でどんどん金融機関や政府に採用されるとは限らないことを意味します。
言い換えれば金融の世界は既得権益がはびこっており、政治的な世界だということです。
高速トレーディング(HFT=High Frequency Trading)は、それが他のオーダーを先回りするからウォール街関係者に嫌われているのではありません。(ウォール街には、その手のアンフェアなアドバンテージは、ごろごろしています)
そうではなくて、HFTがトレーダーやセールスマンを昔、山手線の駅の改札口に居た、切符に挟みを入れる改札の駅員さんみたいに、お役御免にしてしまうから、忌み嫌われているのです。
実際、最近のゴールドマン・サックスの決算を見てください。債券トレーディング収入が前年比-40%とか、笑える数字になっています。
これはもちろん「良いボラティリティが無かった」とか、言い訳の仕方はいくらでもあるでしょうけど、要するにフィンテックの波が債券トレーディングにも押し寄せて、上に長々と説明したような株式トレーディングにおけるスプレッドの蒸発と同じ力学が、FICC(債券為替コモディティ)部門にも働きはじめたということなのです。
その結果、Ph.Dを持ったクウォンツにいちゃん達は、いまドハドハ首を切られています。
ザマミロ!
一足先に「元祖フィンテック犠牲者」となった僕のような株の人間からすると、いま債券部の連中が味わっている苦境は、蜜の味以外の何物でもないですね。www
キーボードのキーの種類だけバリエーションがあるわけですから、単にタイプライター・キーのカフリンクスというだけではなくて、そこに刻印されている文字が何か? ということが問題になるわけです。
普通なら、自分のイニシャル、僕の場合なら「T」、「H」を選ぶと思うのです。でもバリバリの株式トレーダーは、そういうダサいことはしません。
彼らが珍重したのは、分数のカフリンクスです。
「1/2」、「1/4」、「5/8」などです。
これはどうしてか? というと、昔、米国株の株価は分数で刻まれていたからです。たとえば13 1/8という感じです。これは13.125ドルの意味です。
誰かが新しく手に入れた分数のカフリンクスを会社につけてくると、めざとく気がついた別のトレーダーが「よお、おまえさんのカフリンクス、イケてるな」とすべてを了解した賛辞を送るわけです。
株式トレーディングは、1990年代終盤までは、分数との戦いだったのです。
日本人は「アメリカ人は算数ができない」と馬鹿にします。
僕も、彼らを馬鹿にしていました(笑)
ところが、日本人が逆立ちしても勝てないアメリカ人の暗算能力というのがあって、それは分数の世界です。
その理由は、アメリカ人はアメリカン・フットボールなどを通じて普段からクォーターとかスリー・クォーターなどの概念に慣れているからで、そういう分数を聞いただけでビジュアルにその分数の持つ分量をイメージすることができるからです。
(そんなバカな)
皆さんはそう思うかもしれません。
でも突然、「Which is bigger, a quarter or five sixteenth?」と英語で訊かれたら、1秒で即答できる日本人は少ない筈です。
「a quarter」は1/4、「five sixteenth」は5/16です。すると5/16の方が大きいわけです。
僕がアメリカ株の世界に入ったときは、株価は「クォーター刻み」でした。
0 イーヴン
1/4 クォーター = 0.25
1/2 ハーフ = 0.5
3/4 スリー・クォーター = 0.75
というわけです。ところがほどなくそれが「ワン・エイス刻み」に変更されました。
0 イーヴン
1/8 ワン・エイス = 0.125
1/4 クォーター = 0.25
3/8 スリー・エイス = 0.375
1/2 ハーフ = 0.5
5/8 ファイブ・エイス = 0.625
3/4 スリー・ウォーター = 0.75
7/8 セブン・エイス =0.875
です。「クォーター刻み」に比べて、細かい刻みになっているのがわかります。さらにそれが「ワン・シクスティーンス刻み」へと変更されました。
0 イーヴン
1/16 ワン・シクスティーンス = 0.0625
1/8 ワン・エイス = 0.125
3/16 スリー・シクスティーンス = 0.1875
1/4 クォーター =0.25
5/16 ファイブ・シクスティーンス = 0.3125
3/8 スリー・エイス = 0.375
7/16 セブン・シクスティーンス = 0.4375
1/2 ハーフ = 0.5
9/16 ナイン・シクスティーンス = 0.5625
5/8 ファイブ・エイス = 0.625
11/16 イレブン・シクスティーンス = 0.6875
3/4 スリー・クォーター = 0.75
13/16 サーティーン・シクスティーンス = 0.8125
7/8 セブン・エイス = 0.875
15/16 フィフティーン・シクスティーンス = 0.9375
どうですか? くそ面倒臭いでしょう(笑)
なぜこんなコトをうだうだ説明するか? と言えば、株式トレーディングのBid/Ask、つまり買いの気配、売りの気配を立てる際、この分数が刻み幅になるからです。すると1/4の刻み幅と1/16の刻み幅ではスプレッドが4分の1になったことを意味します。
ナスダック銘柄は、昔はブローカーに払われる委託手数料報酬は建値に「込み」になっていました。つまりこのスプレッドが、コミッションだったわけです。
するとスプレッドが4分の1になったということは委託手数料率が4分の1になるのと同じです。
だからトレーダーの間では「1/2」や「1/4」のカフリンクスの方が「5/8」のカフリンクスより「縁起がいい」のです。
その後、一時は1/32毎の刻みが使用されたけど、とうとうデシマライゼーション、つまり小数化、すなわち0.01などが用いられるようになり、分数文化は根絶してしまったのです。
金融サービスにコンピュータを持ち込み、どんどん効率化するということは、トランザクション(取引)をフリクションレス(摩擦なし)にすることを目指しており、それはたいへんケッコーな事です。
でもそれがフリクションレスになればなるほど、マージンは圧迫されるし、胴元のうま味は無くなります。
これは「フィンテック、フィンテック!」と嬉しがっている金融機関の経営者全員が、良く考えるべき問題です。
逆に言えばフィンテックのスタートアップは、その技術力が凄いからといって、ただそれだけの理由でどんどん金融機関や政府に採用されるとは限らないことを意味します。
言い換えれば金融の世界は既得権益がはびこっており、政治的な世界だということです。
高速トレーディング(HFT=High Frequency Trading)は、それが他のオーダーを先回りするからウォール街関係者に嫌われているのではありません。(ウォール街には、その手のアンフェアなアドバンテージは、ごろごろしています)
そうではなくて、HFTがトレーダーやセールスマンを昔、山手線の駅の改札口に居た、切符に挟みを入れる改札の駅員さんみたいに、お役御免にしてしまうから、忌み嫌われているのです。
実際、最近のゴールドマン・サックスの決算を見てください。債券トレーディング収入が前年比-40%とか、笑える数字になっています。
これはもちろん「良いボラティリティが無かった」とか、言い訳の仕方はいくらでもあるでしょうけど、要するにフィンテックの波が債券トレーディングにも押し寄せて、上に長々と説明したような株式トレーディングにおけるスプレッドの蒸発と同じ力学が、FICC(債券為替コモディティ)部門にも働きはじめたということなのです。
その結果、Ph.Dを持ったクウォンツにいちゃん達は、いまドハドハ首を切られています。
ザマミロ!
一足先に「元祖フィンテック犠牲者」となった僕のような株の人間からすると、いま債券部の連中が味わっている苦境は、蜜の味以外の何物でもないですね。www