“赤紙”本当に住めないの? 建物の危険度判定に困惑
「赤」を貼られた家にも本当は住める? 地震直後から、熊本県内の被災地で損壊した家屋やビルに「危険度」を判定した紙が貼られている。これは住民らが二次災害に遭わないよう、取りあえず注意喚起するのが目的。中には構造上、倒壊の恐れがない住居も含まれる。全半壊の程度など、実際に被害を認定する家屋調査とは基準が異なるため、被災住民に思わぬ混乱を呼んでいる。
「5年前に改築したばかり。問題はなさそうなのに」。震度7の揺れに見舞われた同県益城町。自宅の壁に貼られた「危険」を示す赤い紙を見つめ、里形明徳さん(73)は腕組みする。
大地震が発生した場合は、まず自治体職員や建築士などのボランティアが一斉に被災地を回る。赤のほか「要注意」の黄、「調査済」の緑の紙を建物に掲示していく。狙いは、余震などで瓦や外壁が落下する恐れがあるため、歩行者などにも警鐘を鳴らすこと。あくまで応急的に、外観だけで判断する。里形さんの家が危険とみなされたのも、隣の電信柱が傾き、玄関まであと数センチに迫っていることが理由という。「危ないと言われると、元のように暮らしていいのか不安」。妻とともに、自宅と避難所を行き来する生活だ。
県内で賃貸などのマンション約6千室を扱う熊本市の不動産会社社長(48)によると、市内では建物の基礎には被害がないマンションがほとんど。しかし、壁のタイルが一部剥がれたり、ガラスが割れたりした物件はいずれも「赤」だった。「危険判定を受けたマンションの住民から今すぐ引っ越したいと問い合わせが相次いでいる。家を出て行く人が増えれば、建物の資産価値も下がってしまう」
一方、あらためて「全壊」「大規模半壊」「半壊」「一部損壊」「被害なし」と区分されるのが、家屋の被害認定調査。支援を受ける際、住む建物が被害に遭った証しとなる罹災(りさい)証明書発行の指標となるため、自治体職員が国の基準に従ってチェックする。通常は余震などが収まった後、復旧期に本格化するため、被災地ではなかなか進まない。被害を評価する仕組みでありながら、似て非なる基準。熊本市も「市民や事業者に十分周知されておらず、混乱を招いている」と認める。
田村圭子新潟大教授は「新潟県中越地震でも、自宅が『赤』だったのにその後、半壊以下と認定された住民が、補償費を巡って行政とトラブルになるケースがあった」と指摘。「まずは行政窓口や建築士など専門家に相談してほしい」と話す。
=2016/04/29付 西日本新聞朝刊=