熊本県の水俣湾周辺で広がった「公害の原点」と言われる水俣病。
公式確認から1日で60年だが、今なお多くの人が患者認定を待ち、損害賠償を求める訴訟は続く。「水俣病不知火患者会」の大石利生会長(75)は「まだ苦しんでいる人もいるし、なかなか手を挙げることができない人もいるのではないか」と訴える。
同県水俣市ではこの日、患者や遺族、国や県の関係者らが出席して犠牲者慰霊式が開かれる予定だった。熊本地震の余震が続くことなどに配慮し、延期が決まったが、同市は午後1時半、防災行政無線でサイレンを鳴らす。「各家庭で黙とうをささげることになると思う。哀悼の意を伝えたい」と大石さん。
水俣病は1956年5月1日、同市で原因不明の病気発生が保健所に報告されたことで公式に確認された。手足のしびれや視野が狭くなるなどの症状があり、重篤な場合は死に至った。国は68年、チッソ水俣工場の排水に含まれたメチル水銀が原因だと発表。公害健康被害補償法(公健法)に基づき、これまでに熊本、鹿児島両県で2280人を患者に認定し、チッソが慰謝料や医療費などを支払った。
認定基準が「厳し過ぎる」と提訴が相次ぎ、2度にわたり「政治決着」も図られた。提訴の取り下げなどを条件に、一時金支給などによる救済対象を広げた。2013年4月の最高裁判決では、感覚障害だけでも患者と認定。これを受け環境省は、認定基準の新たな運用指針を通知した。
それでも認定のハードルは高い。今年3月末現在、熊本県で1264人、鹿児島県で853人が公健法に基づく認定を待つ。認定を棄却された人による異議申し立てや訴訟もなくならない。大石さんは「全ての被害者救済のため、地域全体の健康調査をしてほしい」と求め続ける。60年を経ても全面解決に向けた道筋は見えていない。
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