日本の為替政策監視 リストに指定、円売り介入けん制
【ワシントン清水憲司】米財務省は29日、貿易相手国の為替政策を分析し、半年ごとに議会に提出する半期為替報告を公表、日本を「監視国リスト」に指定した。今後、日本の為替政策が不公正でないか判定する。円高・ドル安が続く直近の円相場については「秩序立っている」と指摘。為替介入を容認できる「過度な変動や無秩序な動き」にはあたらないとして、日本の円売り介入を容認しない姿勢を示した。
外国為替市場では、日銀が追加緩和を見送ったことで円高・ドル安が加速しているが、日本の為替介入に米政府が否定的な見解を示したことで、週明け以降、円高がさらに進む可能性がある。
米財務省は、相手国の為替政策が不公正でないか判断するため、対米貿易黒字が200億ドル以上▽経常黒字が国内総生産(GDP)比3%超▽年間の為替介入規模がGDP比2%超−−の三つの基準を新たに設定。日本は貿易・経常黒字の2項目に該当した。日本のほか、中国、韓国、台湾、ドイツの4カ国・地域も対象に指定された。監視国リストの指定は今回が初めて。
3項目すべてに抵触すると、相手国に為替政策の是正を求めて交渉を開始。1年たっても是正されない場合、その国の企業を米政府との取引から締め出したり、通商協定の締結や交渉参加にあたり米通商代表部(USTR)に考慮を求めるなどの是正措置を発動できる。従来も似た仕組みはあったが、是正措置を具体的に示すことで、けん制の度合いを強めた。今回の報告では、3項目とも該当した国・地域はなく、自国の輸出競争力を上げる目的で不正に通貨安誘導を行い、より強い制裁措置の対象となる「為替操作国」の認定もなかった。
報告は日本について、為替介入を4年以上、実施していないと指摘しながらも、通貨安競争の回避を約束した主要20カ国・地域(G20)や主要7カ国(G7)の合意を「忠実に守ることが重要」と強調。「金融緩和だけでは経済成長につながらない。財政政策や構造改革が一段と重要になっている」として、金融緩和依存からの脱却を促した。日銀のマイナス金利導入後の円高進行を受け、麻生太郎財務相らが「かなり荒い値動き」「必要になれば適切に対応する」などと介入をにおわせる発言をしたことにも言及し、口先介入へのいらだちをにじませた。
中国については昨夏以降、人民元相場に下落圧力がかかっているものの、「中期的には上昇を続ける」として、市場主導の為替相場制度への移行など経済改革を促した。ドイツには内需拡大による対米黒字の削減を要請。韓国と台湾には、市場が無秩序な状態になった時だけに為替介入を制限するよう求めた。
【ことば】監視国リスト
米政府が貿易相手国の為替政策について、監視対象に選んだ国・地域のリスト。「環太平洋パートナーシップ協定」(TPP)を合意に導くため、昨年成立した「大統領貿易促進権限(TPA)法」に続き、今年2月に「貿易円滑化・貿易執行法」が成立したことを受け、米財務省が作成を決めた。議会内では、貿易相手国の通貨安政策が国内の雇用を失わせているとの批判が根強く、「自由貿易を促進する以上、貿易に関わる不正行為の取り締まりや監視を強めるべきだ」として制定された。