【ブリュッセル=森本学】欧州連合(EU)統計局が29日発表した2016年1~3月期のユーロ圏の域内総生産(GDP)は物価の影響を除いた実質で前期比0.6%増えた。EU統計局によると年率換算では2.2%増。金融市場が動揺する中、回復基調を保った。ただ4月の消費者物価は再び下落に転じ、先行きには「政治リスク」も目立ってきた。
EU統計局はGDPの速報値を今回から前倒しした。従来は期末から約45日だったのに対し、約30日へ短縮。米国のGDP速報値と公表時期をそろえる狙いだ。12~15年のデータを検証したところ、前倒しによる成長率の誤差は0.1ポイント未満だったという。日本は1~3月期のGDPを5月18日に公表する。
ユーロ圏の成長率は13年4~6月期以降、丸3年にわたりプラス成長が続く。1~3月期は世界の金融市場の動揺に加え、中国経済の減速が鮮明になるなど厳しい環境だったが成長率は15年10~12月期(年率1.3%)に比べ加速した。改善が続く雇用が下支えした。同日公表した3月の失業率は10.2%と約4年半ぶりの水準まで改善。底堅い雇用が消費など内需の強さを支えている。
ただ物価は欧州中央銀行(ECB)が異例の量的緩和を実施しているにもかかわらず低迷が続く。同日公表の4月のユーロ圏の消費者物価指数は前年同月比0.2%低下。デフレ圧力の根強さを映した。物価の基調の判断に使う「エネルギーと食品、酒・たばこを除く指数」も1%未満で低迷。ECBが目標とする2%程度の物価上昇率には大きく届いていない。
4月以降の景気動向にも不安がのぞく。独Ifo経済研究所が25日公表した4月の独企業景況感指数は予想に反して悪化した。ドイツ連邦銀行(中央銀行)も18日、4~6月期は成長鈍化するとの見通しを表明。ユーロ圏のけん引役の独景気が勢いを失いつつある。
4~6月期の欧州景気には「政治リスク」も影を落とす。金融支援中のギリシャを巡って改革の進捗状況を点検する第1次評価を巡る交渉が難航中。ユーロ圏は5月9日に臨時財務相会合を開く。合意を持ち越せば7月の大型返済を控え、再びギリシャ危機が再燃するリスクが出ている。
6月23日には英国のEU離脱の是非を問う国民投票が控える。イングランド銀行(中銀)は国民投票に向け企業が新規投資などを先送りし、景気に水を差すと懸念する。
高成長でユーロ圏景気をけん引してきたスペインも政治混迷で6月に再選挙となる見通し。失業率の改善など改革が遅れる懸念が強まっている。