2020年のゴミ箱は“スマート”に

2020年のゴミ箱は“スマート”に
日本を訪れる外国人の数は過去最高を更新。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、民泊の推進や公衆無線LANの設置など外国人の受け入れ態勢も進んでいます。一方で、外国人が「無いと困る」と思っているのに減り続けているのが街頭のゴミ箱です。今、ゴミ箱が抱えている課題と、それをIoTを活用したスマートゴミ箱で解決しようという動きを取材しました。
日本政府観光局は平成21年、東京の外国人総合観光案内所を訪れた外国人に、滞在中に最も失望したことや不便に感じたことについて尋ねました。その結果、「街中環境(ゴミ箱がないこと)」を挙げた人が16分野の中で6番目に多くなりました。これは、「物価」「禁煙・喫煙」よりも多くなっています。具体的には、「観光しながら一日中ゴミを持ち歩かなくてはならない」「ゴミを捨てるためにコンビニエンスストアを捜す」といった不満の声が目立ちました。
また、各地の自治体が行った調査でも、ゴミ箱がないことに多くの外国人が不満を持っているという結果が出ています。
なぜ、東京にはゴミ箱が少ないのでしょうか。そのきっかけは、前回、52年前の東京オリンピックにありました。

「ゴミ箱がない」困る外国人

日本政府観光局は平成21年、東京の外国人総合観光案内所を訪れた外国人に、滞在中に最も失望したことや不便に感じたことについて尋ねました。その結果、「街中環境(ゴミ箱がないこと)」を挙げた人が16分野の中で6番目に多くなりました。これは、「物価」「禁煙・喫煙」よりも多くなっています。具体的には、「観光しながら一日中ゴミを持ち歩かなくてはならない」「ゴミを捨てるためにコンビニエンスストアを捜す」といった不満の声が目立ちました。
また、各地の自治体が行った調査でも、ゴミ箱がないことに多くの外国人が不満を持っているという結果が出ています。
なぜ、東京にはゴミ箱が少ないのでしょうか。そのきっかけは、前回、52年前の東京オリンピックにありました。

五輪が変えたゴミ収集

昭和30年ごろの東京。街に並ぶゴミ箱は当たり前の風景でした。
当時の様子は「東京都清掃事業百年史」に詳しく載っています。それによると、住宅の前には1軒1軒ゴミ箱が備え付けてあって、そこにゴミを入れて置くと、大八車を引いた東京都の作業員が回って来て収集していました。収集は不定期で、台所から出る生ゴミについては、作業員が回ってくると「チリンチリン」と鈴を鳴らして合図し、家庭の主婦が家の中から出して渡すという仕組みになっていました。
そうした方法を大きく変えたのが昭和39年の東京オリンピックでした。世界中から観戦客などを迎えるに当たって、東京都は街の景観を悪くしていた、こうした収集方法を大きく変えることにしたのです。家の前のゴミ箱を撤去し、ゴミはポリエチレン製のバケツに入れて、朝、家の前に出しておく方法に変わりました。回収車も決まった時間に回るようにして、ゴミは外に放置しないよう都民に呼びかけました。
外国人に気持ちよく過ごしてもらおうと、多くの都民が協力し、オリンピックの7か月前の3月には全ての特別区で、この方法が実施されるようになりました。

繁華街からも消えたゴミ箱

オリンピックで、家の前のゴミ箱が無くなると目立つようになったのが、ゴミの“ポイ捨て”でした。
ゴミの散乱を防ごうと、街の中にゴミ箱を設置する自治体も出てきました。新宿区では平成9年に、いわゆる「ポイ捨て禁止条例」を施行したのに合わせて街頭にゴミ箱を設置しました。
300個を置きましたが、ゴミ箱がすぐにあふれて、かえって美観を損ねる結果になりました。そのため、毎日2回の回収を強いられ、回収や処理に多額の費用がかかることになってしまいました。中のゴミを調べたところ、飲食店や家庭から持ち込まれたとみられることが分かり、区は平成16年までにゴミ箱をすべて撤去しました。
渋谷区でも「ゴミ箱を置くとゴミが集まってくる状態」だとして、駅前にあったゴミ箱を撤去しています。

撤去の動き テロが拍車

さらに、街頭のゴミ箱撤去の動きに拍車をかけたのがテロ事件の増加です。
誰でも近づくことができて、中がよく見えないゴミ箱は、テロリストが爆発物などを隠すのに都合がいい存在となります。海外で大きなテロ事件があるたびに、街の中からゴミ箱の数が減っていきました。
来月の伊勢志摩サミットに向けて、ゴミ箱はさらに減っていくかもしれません。

2020年はどうなる 東京都は

4年後のオリンピック・パラリンピックに向けて、東京都も街の美化に力を入れる計画です。
都は先月、2020年までの5年計画「東京都環境基本計画」をまとめました。その中では「大会の開催も見据え観光客に分かりやすい、公共空間における資源・廃棄物管理のルール・再構築していく必要がある」としています。そのために、さまざまな試験的な取り組みを今年度から始める計画です。
東京都環境局は「公衆ゴミ箱の設置は区市町村の事業になりますが、街なかのゴミ箱を増やすというのは、時代の流れに逆行するのではないでしょうか。外国人観光客には、不便だと思っても持ち帰ってもらう日本のやり方を理解してもらえるようPRに力を入れていきたい。美化活動がもっと目に見える形にしたり、分別が分かりやすいように表示を見直したりするなど、マナー向上につながる取り組みに力を入れたい」と話しています。

IoTで解決?活用進むかスマートゴミ箱

こうしたなか、IoT(Internet of Things=モノのインターネット)によって解決しようという取り組みが始まっています。
東海大学の東京・高輪キャンパスに設置されたゴミ箱。中にセンサーがあって、ゴミの量などがリアルタイムに分かり、携帯電話の回線を通じてウェブ上で管理できる“スマートゴミ箱”です。ゴミを圧縮する機能も備え、必要な電力は太陽光発電でまかないます。いっぱいになる直前のタイミングで収集できるため、ゴミの回収費用や収集車から出る二酸化炭素の排出を大幅に抑えることができます。
機能を追加することでテロに利用されるのを防ぐこともできます。例えば、ゴミ箱の内外にカメラを設置すれば、画像認識技術を使って爆発物などの異物を発見したり、警告を鳴らしたりすることも可能です。
東海大学では、学生の研究活動にも活用しながら、ゴミ箱の数を増やしていくことにしています。
東海大学情報通信学部組込みソフトウェア工学科の撫中達司教授は「2020年には、ごみに対する意識がまったく違う外国人が大勢訪れます。外国人に快適に過ごしてもらいながら環境にもいいものとして、スマートゴミ箱の導入を自治体などに働きかけていきたいと思っています。一律に街からゴミ箱を無くすのではなく、適した地域にはきちんと設置して役立てることが必要なのではないでしょうか」と話しています。
1964年のオリンピックをきっかけに街の美化が大きく進んだ東京。4年後、2020年の大会が、この街の美化に再びレガシーを生むことができるのか、世界から視線が注がれています。