[PR]

 東日本大震災で注目された臨時災害FMが、熊本地震の被災地で活動している。熊本市のコミュニティーFMが24時間の災害FMに切り替え、益城、甲佐、御船の3町も地域情報の提供を始めた。

 熊本市中心部のビル2階にあるコミュニティーFM「熊本シティエフエム」。地震の影響で壁の上部がはがれ、ドアの一つは使用禁止。ヘルメットが無造作に置かれた奥のスタジオで、14日の地震以来、生放送が続く。

 16日未明には無停電装置も故障し、約20分、放送を停止したが、自家発電で機器を再起動。余震が続く中、真っ暗な室内の床にスタッフが座り込み、「落ち着いてください」「命を守る行動をして」と呼びかけ続けた。

 熊本シティエフエムは、阪神大震災の翌1996年、同市などの第三セクターとして発足。エリアを市町村内に限り、地域密着の放送をするコミュニティーFMの全国的な草分けのひとつ。市内の約7割の地域をカバーする。総務省が18日、同市の災害FMとして30日まで許可し、期間中は公費で経費補塡(ほてん)される見通しだが、その前から災害対応に切り替えた。

 以前は夜の8時間半は東京の番組を流していたが、いまは完全に地元発の生放送。災害対策本部の会議後の会見を流したり、災害情報を伝えたりしている。

 地震後、急増しているのがリスナーからのメールだ。1日10~20通だったのが、いまでは約400通が寄せられる。「お風呂に入りたい」「コインランドリーを探している」「炊き出しをしたいので精米所を教えて」という切実な内容もある。スタッフが調べたり情報提供を呼びかけたりすると、さらに反響がある。

 深夜に「眠れない」という電話がかかってくることもしばしば。避難所の体育館や車中で聞いているらしい。リクエストで市内の小学校の校歌を放送したら、直後に「(避難している)みんなで合唱しました」とメールが来た。17年、パーソナリティーを続ける水野直樹さん(43)は「こんな体験は初めて」と話す。

 5月以降、従来の形式に戻る予定だが、営業部長の長生(ながお)修さん(54)は「地域のつながりをもっと強める放送にしたい」と語る。

 熊本県では甲佐町が23日、御船町が25日、益城町も27日に災害FMを始めた。いずれも役場主導で、総務省から機材を借りるなどして始めた。御船町の担当者は「防災行政無線の代わり」と話すが、町外の小学生の応援メッセージを伝えるなど工夫しており、「今後は避難所の声も伝えたい」。

 東日本大震災でも東北3県で24の災害FMが活動した。被災地のFM局に詳しい渡辺武達・同志社大学名誉教授(メディア論)は「身近なメディアは、地域の結びつきや力を高める効果もある」と話す。(伊藤智章)