東京大学 先端科学技術研究センター教授 西成活裕
にしなり・かつひろ/東京大学大学院博士課程修了。専門は数理物理学。著書に『渋滞学』(新潮選書)、『とんでもなく役に立つ数学』(朝日出版社)など。
微分と積分。この言葉を見ただけで、拒否感を覚える人も多いと思います。数学の試験で問題が解けずに固まってしまった、嫌な思い出がよみがえってきた人もいるんじゃないでしょうか。
微分積分なんてもうこりごり、と思うかもしれません。でもね、私は人類が開発した最強のツールが微分積分だと思っています。使わないのはもったいない。ここでは本当に大事なポイントだけを、バシッと教えたいと思います。
そもそも、微分と積分をどう読むか分かりますか?
「『かすかに分かる』が微分、『分かったつもり』が積分」。皆さんの理解も、だいたいこんな感じじゃないですか?(笑)よく勉強した人でも、完璧に理解している人なんてそうそういません。
微分は17世紀にアイザック・ニュートン、ゴットフリート・ライプニッツが確立させました。人類が300年もの歴史をかけて発明したものですから、急に理解しろといっても分からないのは当たり前。そこで、どんなモチベーションで人類が微分に到達したのか、というところから始めましょう。
では皆さん、髪の毛を1本抜いて、机の上に置いてください。くねくねと曲がっていますね。そのままの状態で、セロハンテープでペタッと固定してください。このくねくねした髪の毛の長さを、定規で測ってみましょう。
これは、私が小学生に微分を教えるときに使っている問題です。小学生に考えさせると、そのうち「先生、だいたいの長さでいいの?」という声が上がります。そして、定規の向きを変えながら何回か測って、その値を合計して長さを求めます。
曲がっているものでも、何回かに分けて測ってその値を足せば、だいたいの長さになる。分けるのが微分で、足すのが積分。ここに気付くことができれば、もうニュートンの域に到達しています!
時間を刻んで未来を予測する最強のツール!
では、もっと正確に測るにはどうするか。もう少し細かく刻めばいいですよね。刻むのを10回、20回と増やし、とことん刻むと、どんなものでも真っすぐとみなせ、高い精度で測ることができる。これが微分の原点です。
よく分からないものを測りたい。これは人類の根源的な欲求で、曲がったものを真っすぐなものでどう測るのか、という発想から微分という考え方が誕生したといえるでしょう。
空間を微分することで、曲がっているものの長さを測ることができるようになりました。では、細かく刻む対象を時間にするとどうなるか。ここはスローモーションをイメージするとよいでしょう。
時間を細かく刻んでいくと、前の一瞬と次の一瞬では、ほとんど変化がなくなります。変化が小さいということは、関係してくる要素が少なくなって、因果関係を捉えやすくなります。
この変化を表すのに使われているのが「dx」「dt」という記号で、小さな時間(t)でどれだけ対象(x)が変化したのかを表します。
時間をとことん刻んで、変化の仕方が分かれば、後はその規則に従うだけ。複雑な現象でも方程式を立てれば、1年先にどうなるか計算できてしまう。つまり、未来を予測できるんです。
不確実な世の中でも、数学で求めたものは、計算間違いでもしない限り反論のしようがない。正しさで数学に勝てるものはありません。だから未来を予測できる微分積分が最強のツールなんです。