第6回】西成教授の微分入門 使わなきゃもったいない! 必須アイテム微分積分超入門

数学の「最強の武器」の一つは微分積分だ。応用数学研究の傍ら、『とんでもなく役に立つ数学』などの著者としても知られる東京大学の西成活裕教授に、そのツボを講義してもらった。

東京大学 先端科学技術研究センター教授 西成活裕
にしなり・かつひろ/東京大学大学院博士課程修了。専門は数理物理学。著書に『渋滞学』(新潮選書)、『とんでもなく役に立つ数学』(朝日出版社)など。

 微分と積分。この言葉を見ただけで、拒否感を覚える人も多いと思います。数学の試験で問題が解けずに固まってしまった、嫌な思い出がよみがえってきた人もいるんじゃないでしょうか。

 微分積分なんてもうこりごり、と思うかもしれません。でもね、私は人類が開発した最強のツールが微分積分だと思っています。使わないのはもったいない。ここでは本当に大事なポイントだけを、バシッと教えたいと思います。

 そもそも、微分と積分をどう読むか分かりますか?

 「『かすかに分かる』が微分、『分かったつもり』が積分」。皆さんの理解も、だいたいこんな感じじゃないですか?(笑)よく勉強した人でも、完璧に理解している人なんてそうそういません。

 微分は17世紀にアイザック・ニュートン、ゴットフリート・ライプニッツが確立させました。人類が300年もの歴史をかけて発明したものですから、急に理解しろといっても分からないのは当たり前。そこで、どんなモチベーションで人類が微分に到達したのか、というところから始めましょう。

 では皆さん、髪の毛を1本抜いて、机の上に置いてください。くねくねと曲がっていますね。そのままの状態で、セロハンテープでペタッと固定してください。このくねくねした髪の毛の長さを、定規で測ってみましょう。

 これは、私が小学生に微分を教えるときに使っている問題です。小学生に考えさせると、そのうち「先生、だいたいの長さでいいの?」という声が上がります。そして、定規の向きを変えながら何回か測って、その値を合計して長さを求めます。

 曲がっているものでも、何回かに分けて測ってその値を足せば、だいたいの長さになる。分けるのが微分で、足すのが積分。ここに気付くことができれば、もうニュートンの域に到達しています!

時間を刻んで未来を予測する最強のツール!

 では、もっと正確に測るにはどうするか。もう少し細かく刻めばいいですよね。刻むのを10回、20回と増やし、とことん刻むと、どんなものでも真っすぐとみなせ、高い精度で測ることができる。これが微分の原点です。

 よく分からないものを測りたい。これは人類の根源的な欲求で、曲がったものを真っすぐなものでどう測るのか、という発想から微分という考え方が誕生したといえるでしょう。

 空間を微分することで、曲がっているものの長さを測ることができるようになりました。では、細かく刻む対象を時間にするとどうなるか。ここはスローモーションをイメージするとよいでしょう。

 時間を細かく刻んでいくと、前の一瞬と次の一瞬では、ほとんど変化がなくなります。変化が小さいということは、関係してくる要素が少なくなって、因果関係を捉えやすくなります。

 この変化を表すのに使われているのが「dx」「dt」という記号で、小さな時間(t)でどれだけ対象(x)が変化したのかを表します。

 時間をとことん刻んで、変化の仕方が分かれば、後はその規則に従うだけ。複雑な現象でも方程式を立てれば、1年先にどうなるか計算できてしまう。つまり、未来を予測できるんです。

 不確実な世の中でも、数学で求めたものは、計算間違いでもしない限り反論のしようがない。正しさで数学に勝てるものはありません。だから未来を予測できる微分積分が最強のツールなんです。

Photo by Hiroyuki Oya

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数学こそは究極の武器である。さまざまなビジネスの現場で問題を明らかにし、分析し、判断を下す。数学の素養、数学的思考はその強力な道具であり、力強い味方となる。企業にとってもしかりだ。数学はカネを生む。世界のビジネスの最前線で存在感を放ち...もっと読む

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