観光立国 日本人も楽しまないと
日本を訪れる外国人旅行者の数がぐんぐん伸びている。昨年は1974万人と、かつて政府が2020年の目標として掲げた2000万人に迫った。好調さを受けて引き上げられた目標は、20年に4000万人、30年に6000万人だ。
他方で気になるのが、日本人による旅行である。海外旅行も国内旅行も振るわない。観光庁によると、昨年は45年ぶりに、海外からやって来る旅行者が日本から海外に向かった旅行者を上回った。海外からが前年比47%増だったのに対し、日本から海外へは、4%減である。
国内旅行(14年)も、人数が前年比5・7%減、旅行の消費額が同8・1%減だった。政府は「観光立国」を唱え、経済効果を期待して訪日外国人の増加に力を入れる。だが、そこに住む国民が観光を日常的に楽しまない、楽しめない、では、むなしく、真の観光立国とは呼べない。
国民が旅行好きの国は、海外から訪れても楽しいはずだ。日本人が海外に出向けば、海外にあって日本にないものに気付いたり、逆に日本の魅力を再発見したりできる。そうした実体験は、海外の人を迎える際にも役立つだろう。旅先での外国人旅行者と日本人旅行者の交流は、金額では表せない資産となる。
ではなぜ、日本人の旅行、特に観光目的の旅が低迷しているのか。
人口減少もあるだろうし、円安が日本人の海外旅行を割高にした面もある。特に着目したいのは低い有給休暇の取得率だ。オンライン旅行予約が専門の米エクスぺディア社が主要26カ国を対象に調査したところ、日本人は有給休暇の取得率で最低の韓国に継ぐ2番目の低さだった。さらに、自分の有給休暇が何日かを知らない人は50%超と最多で、10%前後の他国との差が際立った。
盆暮れや祝日のある週末に旅行をすれば、費用がかさみ、特に所得の低い世帯はためらってしまうだろう。日数や行き先が制限されたり、渋滞や混雑がストレスになったりもする。平日の旅行はといえば、子どもの学校があり難しい。
欧州では、春や秋にも学校の休みを作り、地方によって日をずらすことで家族旅行がしやすくなっている国も少なくない。気軽に旅行を楽しめる工夫ができないものだろうか。
大型連休が始まった。この機会に、国内外の旅行に出かけるという人も多いだろう。
この時期、例年なら観光客でにぎわう熊本や大分は、大地震からの復旧途上である。旅行者の受け入れで制約も多いはずだ。しかし、人が訪ねてくるということは、そこに住む人を元気付ける。訪ねられるようになった所から、足を運んでみたい。