春野ユリ - ニュース・コラム,健康,病気,睡眠,科学 08:00 PM
あなたのベッドでもトコジラミ(南京虫)が暗躍中かもしれません
Popular Science:「トコジラミに咬まれず熟睡しよう」と言われても、トコジラミを見たことがない人にはピンと来ないかもしれません。先進国では20世紀半ばにシラミのような害虫は大々的に駆除されましたが、最近20年ぐらいで、彼らは再び世界的に復活を果たし、トコジラミに咬まれることなど夢にも思わず無邪気に眠る人たちの血を、喜々として吸っています。そのためニューヨーク市をはじめとする主要大都市の行政が、その手の害虫駆除に乗り出しています。
トコジラミ復活の原因は、普及している殺虫剤に対する耐性がついてしまったからかもしれません。オーストラリアのシドニー大学研究チームが、トコジラミの殺虫スプレーに対する耐性が発達した理由は、極めて単純であることを発見しました。それはつまり、トコジラミの皮膚が以前より厚くなったせいです。この研究結果は最近の『PLOS One』誌に発表されています。
トコジラミ(学名Cimex lectularius)は小さな昆虫で、そのサイズと形はリンゴの種に例えられます。血液のみを餌としているので、生きるためには血を吸う必要があります。たっぷり血を吸うと体が膨らみ、明るい茶色のボディは獲物から吸った血液のせいで暗赤色に変わります。
生物学者のDavid Lilly氏とシドニー大学の研究チームは、電子顕微鏡を使ってトコジラミの「皮膚」を拡大してじっくり観察しました。トコジラミの「皮膚」は実際には皮膚ではなくてキューティクル(クチクラ)として知られる外骨格で、あらゆる昆虫と節足動物にみられるものと同じものです。
Lilly氏は「殺虫剤に対して耐性のあるトコジラミと同じ殺虫剤で簡単に殺せるトコジラミの標本から、それぞれに取り出したキューティクルの厚さを比較することができました」と研究声明で説明しました。そして、キューティクルが厚くなるほどトコジラミは毒に対する耐性が強くなることがわかりました。この新しい情報を使えば「敵の甲冑の隙間を攻めるための、新しい戦略を立てられるかもしれません」と期待しています。
トコジラミはいったん家やアパートに入り込むと、マットレスの縫い目やボックススプリング、ベッドのフレームの内側に身を潜め、夜になると這い出してきて、トコジラミがうようよしているベッドに身を横たえている不運な人間を餌食にします。
トコジラミが蔓延している場合、必ずしもすべてのトコジラミがベッドという一等地を居場所にできるわけではありません。椅子のクッションやソファ、壁紙の下や引き出しの中など、家の中の別の場所にいる場合もあります。しかし必ず定期的にベッドに移動します。ときには不適にも人間の洋服やバッグ、スーツケース、家具などしがみつけるものなら何でもヒッチハイクして新天地に移動し、暗躍します。
人はトコジラミに咬まれても何も感じません。それはトコジラミの唾液の中に分泌される痛み止めが、獲物の皮膚を無感覚にさせるからです。睡眠中の人がトコジラミに体を咬まれてもチクっとも感じなければ、目を覚ましてトコジラミを叩き潰すこともありません。咬まれたあともまったく症状が出ない人もいますが、多くは咬まれたところが赤くヒリヒリと腫れて、居ても立っても居られないぐらいかゆくなります。
アメリカでは、トコジラミは環境保護庁と疾病対策センターにより公衆衛生上の害虫として指定されているにもかかわらず、人から人へ感染する一切の疾病の感染媒体としては認識されていません。しかし、トコジラミの犠牲者は不眠症やその他の精神疾患を体験することもあります。夜中に6本脚の吸血鬼が、闇に紛れて血を吸いに来ると知りながらベッドに毎晩身を横たえるとしたら、あなただってそうなるかもしれません。Lilly氏のチームの新発見が、将来さらに強力な殺虫剤を作るのに役立ってくれることを、心から願うばかりです。
BED BUGS BEAT INSECTICIDES WITH THICK SKIN|Popular Science
Grennan Milliken(訳:春野ユリ)
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