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筋肉は最強のビジネススキル 第1回<仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか>

 日頃運動をしていない人でも、思わず体を動かしたくなる、さわやかなこの季節。ぜひおすすめしたい1冊があります。トレーニング伝道師・山本ケイイチさんの『仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか』。2008年の刊行以来、着々と版を重ね、現在13万部のベストセラーです。

「体を鍛える必要は感じるけれど、なかなか踏み出せない」「フィットネスクラブに入ったものの、すぐ挫折してしまった」「ジムには通っているが、惰性になっている、マンネリ化している」――そんなあなたへ。

「大胸筋を鍛えるには、ベンチプレスを、○キログラム×10回で3セット」といった具体的トレーニングメニューは一切出てこない、異色の筋トレ本である本書から、山本さんのアドバイスを5回にわたってお届けします。

* * *

●筋トレはメンタルに効く

 私の職業はパーソナルトレーナーである。パーソナルトレーナーとは、一対一でトレーニングの指導をするトレーナーのことだ。

 クライアントの中心は、経営者や企業に勤めるビジネスパーソンだ。

 いま現場でバリバリ働いている第一線のビジネスパーソンには、体を鍛えている人が非常に多い。彼らは忙しい中でもきちんと時間をとって、定期的に体を動かしている。ジムでウェイトトレーニングをするほか、水泳や、マラソンをする習慣を持つ人も増えている。

 とりわけ外資系企業に勤める若手ビジネスパーソンは、トレーニングをしている率が非常に高い。外国人は熱心にトレーニングをするから、同僚に影響される部分もあるだろう。ある外資系金融会社では、社員用のジムを社内に持っているほどだ。

 習慣的にトレーニングをすることは、自分の健康を保つことにつながるから、長く元気で働くための重要な自己投資の一つとなる。まさに「体が資本」の実践だ。
 しかしトレーニングのメリットは体に関することにとどまらない。

 トレーニングをすることによって、精神的にタフになる、思考がポジティブになる、直感力が高まる、クリエイティビティが磨かれるなど、メンタル面でのメリットもはかりしれない。

 激務の合間をぬってトレーニングに駆けつけるクライアントに日々接していると、これからのビジネスパーソンは、頭がいいだけでは勝ち残れないということを強く感じる。鍛えられた肉体は、もはやビジネススキルの一つなのである。

●自分本来の輪郭を保つ

 ある経営者は、「自分がトレーニングをするのは、自分本来の輪郭(りんかく)をしっかり保つためだ」と言っている。

 私にトレーニングを依頼してくるクライアントには、仕事で成功し、若くして大金を手にした人も少なくない。彼もその一人で、自由に使えるお金を手にして、最初のうちは車を買ったり、高いお酒を飲み歩いたりしたのだが、やがてそんなことをしても何の意味もないことに気づいた。そんなときに、トレーニングをしようと思い立ったのだという。

 きっかけは健康にいいからぐらいの軽い気持ちだったが、次第に、厳しい課題を自分に課すことで、気分が整ってくるのを感じるようになった。「トレーニングによって自分の正しい輪郭さえ常に確認していれば、仕事上、誤った方向に行きそうなときも、すぐに察知して修正できる」とも言っている。

 ビジネスで成功すれば、まわりからチヤホヤされる。自分が人間としてビッグになったように思ってしまう。剣道をしたことがある人は分かると思うが、竹刀(しない)のような長い棒を持っただけで自分が強くなったような気になる。それと似たようなものだ。

 でもジムに来ればそうではない。

 よく「銭湯や温泉に行けば、偉い人もそうでない人も、みんな同じ。裸のつきあいができる」と言う。それと同じで、ジムに行ったら金持ちだろうと貧乏だろうと、いまの自分のありのままの肉体をさらすしかない。

「オレは金を持ってるぞ」と言っても、「懸垂(けんすい)ひとつ、できないのか」と言われればそれまでだ。こればかりはごまかしようがない。代わりに誰か部下にやらせるわけにもいかない。

 会社に行けば権力者かもしれないが、実際に走ったら5分も走れない、10キロのバーベルも上がらない。そのふがいなさを自覚すれば、自分がビッグな人間だ、などという幻想は即座に打ち砕かれる。

 人は体を鍛えている人を無条件で尊敬する。

 たとえばマラソンランナーがテレビでインタビューされているのを見ると、言っていることにウソがないな、と感じる。やはりあれだけの身体能力を持ち、パフォーマンスを発揮するということは、何年も同じことを淡々と続けられる精神力がなければ無理に決まっているのだ。だからこそ、体力がある人、体を鍛えている人、肉体的に自分を律している人に対して、人は自然と尊敬や信頼を寄せる。

 そのような尊敬や信頼に支えられて抱く自信は本物だ。

 言ってみれば、トレーニングとは、地位も肩書きも抜きにした、素のままの自分を客観的に認識し、それを磨き上げる作業なのだ。

●鍛えた肉体は金で買えない

 私は職業柄、筋肉のついた体をしている。

 私がここまで筋肉を育てるには、10年以上かかっている。昨日や今日、トレーニングを始めたわけではない。10代半ばから、ほとんど毎日欠かさずトレーニングをして、その結果としてこの体がある。

 筋肉は、洋服や靴を買うように、お金を出せばその場で手に入るというわけにはいかない。

 また一度手に入れても、ずっと自分のものになるわけではない。年齢とともに筋肉は衰えていくし、脂肪はつきやすくなる。維持するためには、それまで以上のトレーニングを続けていく必要がある。

 いまは金さえ出せば何でも買えると思われている時代だ。「人の心も金で買える」という堀江貴文氏の発言は、多くの非難は浴びたものの、時代の空気をよく表していた。

「金さえあれば何でも買える」という発想は、人間の思考を短絡的にしている。そのことは、世の中で起こるいろいろな事件を見ていても感じられる。

 結果をすぐ求める。努力しなければ手に入らないと分かると、すぐあきらめる。簡単に絶望して極端な行動に走る。長いスパンで物事を考えたり、他人の気持ちを推し量ったりする余裕が持てなくなっているのだ。

 トレーニング雑誌でさえ、最近は「このトレーニングをすれば1週間で筋肉がつく」といった短絡(たんらく)的な記事が増えている。しかし、そんなことはありえない。
 
 プロテインを飲んだからといって、すぐに筋肉が倍になるわけではない。

どんな優秀なトレーナーでも、「お金には糸目をつけないから、明日までに筋肉をつけてくれ」と頼まれても絶対に無理だ。

 トレーニングは、短絡的なことばかりがもてはやされている現代において、数少ない、短絡的ではないものだ。

 本当にトレーニングの意味を理解したら、「すぐに成果が上がる」「すぐに儲かる」といったうさんくさい謳(うた)い文句に心惹かれたり、お金ですべて解決できるような思想に惑わされそうになったりしても、「いや、そうじゃないな」と気づくことができる。

「生命」や「身体」に関するものは、すべてプロセスを省略することができない。いずれは科学で短縮されるのかもしれないが、いまのところ赤ん坊が生まれるまでにはどうしても10カ月かかる。5カ月に縮めたいといっても無理だ。
 
 農業なども、そういう気の長い仕事である。技術で促成栽培するにも限度がある。米も野菜も果物も、多くの農作物は収穫までに長い時間を必要とする。
 
 プロセスの重要性、粛々(しゅくしゅく)と努力を積み重ねることの重大さに気づくだけでも、トレーニングをする意味はある。

* * *

『仕事ができる人はなぜ筋トレをするのか』(山本ケイイチ)
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山本ケイイチ(ヤマモト・ケイイチ)
13歳のとき独学でトレーニングを開始。高校卒業後、陸上自衛隊に入隊。初級偵察教育課程をトップで卒業し隊長賞受賞。除隊後、パーソナルフィットネストレーナーとして、プロのアスリートやダンサー、経営者、外資系エグゼクティブなどを指導。ハードなトレーニング経験と最新の運動生理学・脳科学に基づいた独自のトレーニング理論が高い評価を得て、指導依頼が殺到する。東日本大震災後、宮城県石巻市雄勝町に移住。

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