三菱自動車が燃費データを偽装していたというニュースが、連日報道されている。
現在までのところ、EKワゴンなど4車種の軽自動車62.5万台について法律で定められた測定方法とは異なる測定方法、また机上において架空のデータを使用したと見られており、不正は1991年頃からされていた、と三菱自動車は発表した。
このデータ偽装問題についての原因や影響は様々な場面で議論されているが、本記事では「お金」の面から、この問題が三菱自動車に与えるダメージを考えていきたい。
補償金額の内訳
まずは、一体、どれくらいの補償金額が発生するのか、概算ではあるがすでに報道されている中からまとめてみた。(金額はすべて野村證券による試算です)
今回の問題における三菱自動車の補償金額は、最大で1,500億円に上ると見られている。それでは、その内訳はどのようになっているのか見ていこう。
ガソリン代の補償 1台当り4.8万円~9.6万円
購入者はカタログに掲載されている燃費よりも悪い燃費で走行してしまっていたことになる。改ざんデータと実測数値におけるガソリン代の差額を三菱自動車は返還する方針だ、という報道がされている。
ユーザーへのお詫び代 1台当り1万円~5万円
対象車種のユーザーに対して、今回の不正に対するお詫び代として、1万円~5万円の金額が検討されている。
エコカー減税分の返還 1台当り1万円~2万円
今回の不正はエコカー減税の要件を満たすかどうかに関わってくる。正しい数値がエコカー減税の対象から外れる場合、エコカー減税についても負担する必要が出てくる。
日産自動車に対する補償 400億円~500億円
三菱自動車は日産自動車と提携関係にあり、両社のジョイントベンチャーである「NMKV」が今回の不正対象となった4車種を開発した。
三菱自動車の日産自動車に対する補償は避けられず、補償金額は400億円~500億円と見られている。ゴーン社長がこの金額で納得するのか、少し疑問ではあるが…。
1,500億円は不正車種が4車種だけだった場合の想定
上記の想定は、三菱自動車が公表している軽自動車4車種においてのみ不正が行われた場合の補償金額想定である。
実際には不正な測定方法でデータ取得が行われた可能性のある車は200万台以上ある、という指摘もある。もしそれが事実だった場合、補償金額はさらに膨らむ可能性がある。
三菱自動車「補償金の支払いは可能」
これらの報道を受けて、三菱自動車は決算発表の記者会見で「補償金の支払いは可能」であると主張した。
その主張の根拠は、「期末(3月末)時点で、約4,600億円の現預金がある」というものだ。
私はその主張を聞いた時に、まず思った。
「いやいや、そのお金、全部あなたのところのお金なの?」
私は三菱自動車が金融機関からの借入金があるだろう、と思ったので、借金してきて「金はあるぞ!」と言われても困る、と思ったのだ。
しかし、実際に財務諸表を見てみると、三菱自動車には金融機関からの借入金はほとんどないことがわかった。
まずは、現預金から。
なるほど、確かに約4,600億円(正確には4,533億)ある。
それでは次に、借入金の項目を見てみよう。
長期借入金は28年3月末時点で約5億円しかない。この規模の会社でこの金額の借入金は、無借金経営と言っていい。
しかしながら、もっと細かく見ていくと、まず流動負債の項目で、近いうちに支払わなければいけない項目がいくつかある。
「支払手形及び買掛金」 3,620億円
「短期借入金」 123億円
「1年内返済予定長期借入金」 141億円
「未払金及び未払費用」 1,131億円
「未払法人税等」 66億円
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合計 5,081億円
そして、逆に近いうちに入ってくるお金もある。
「受取手形及び売掛金」 1,721億円
「商品及び製品」 1,412億円
「短期貸付金」 30億円
※「仕掛品」「原材料及び貯蔵品」は短期的な収入の計算できないため除外した
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合計 3,163億円
先ほどの、近いうちに出て行くお金と差し引きした場合に、約2,000億円(5,081億円-3,163億円=1,918億円)くらいは、すぐに会社から出て行ってしまう。
細かく見ていった場合に、三菱自動車の発表した「現預金が約4,600億円ある」という主張は、果たして適切なものなのだろうか。
運転資金は約2000億円?
記者発表の場で、三菱自動車は「運転資金は月間売上の1ヶ月分あれば大丈夫」と言っているが、そうすると、28/3月期の売上2兆2,678億円の1ヶ月分約2,000億円が必要ということになる。
もし、運転資金として約2,000億円が必要だった場合に、ここまでの計算を加味すると、補償金の支払いをした場合に、自己資金だけでは資金がショートする可能性がある。
よしんばショートまでいかないにしても、かなりギリギリの経営を強いられることになる。
まとめ
会社にある現預金が4,.600億円、すぐに出て行くお金が2,000億円。
残った2,600億円のうち、補償金が1,500億円として、1,100億円しか残らない。運転資金は2,000億円必要だが、果たして三菱の財務部門は、どのようにこの難局を乗り越えようとしているのだろうか。
繰り返しになるが、補償金の1,500億円というのは、発表された4車種における試算である。不正対象車種が広がれば、さらに補償金額は膨らむ。
今回の数字を見た個人的な印象としては、三菱自動車は金融機関からの借り入れや第三者からの資本受け入れはかなり真剣に検討しなければいけないのではないか、という感じだ。実際に、三菱自動車は、すでに金融機関に対して調達の可能性があることは伝えているらしい。
ある専門家は、「三菱自動車が三菱グループの金融支援を受ける可能性もあるが、経営が立ちゆかなくなる場合は、中国や台湾の資本受け入れの道も出てくる」としている。
台湾の鴻海に買収されるSHARPのように、三菱自動車は外資の会社になってしまうのか。
参考:テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」4/27放送分