過去4シーズンで3度の優勝を誇るサンフレッチェ広島が新ホームスタジアムの建設候補地をめぐり、地元自治体行政と対立している。その経緯は前編記事で詳しく伝えた。
広島市と広島県が推すのは海沿いの「広島みなと公園」。市の中心部からの移動はシャトルバスを想定するも、「幹線道路が1本しかなく、今でさえ港に出入りするトラックで周辺の道路は慢性的な渋滞。試合開催日にマイカーやシャトルバスが押し寄せると車はまるで流れなくなります」など、地元住民の多くが難色を示している。
一方、サンフレッチェ広島が示した案は、旧広島市民球場跡地。国有地であるため使用に当たっては一定の規制があるものの、JR広島駅前から路面電車で10分程度、徒歩でも20分圏内とアクセスがいい。「市民球場がなくなって近辺の人通りが減り、商店街も寂しくなった。みなと公園に造るぐらいなら、ここに建ててほしい」(ある商店主)といった声も多く、地元住民は大部分がこちらを支持しているようだ。
だが、市や県はサンフレッチェを蚊帳(かや)の外に置き、半ば強引に「みなと公園」案を推し進めようとしている節がある。地元行政は今後、両候補地をどのような物差しで検討していこうと考えているのだろうか? 広島県庁の作業部会窓口である、都市圏魅力づくり推進課の担当者はこう言う。
「スタジアムの使用は、Jリーグの試合で年間20~30日程度。残りの日は芝の養生の問題もあってあまり施設を活用できず、採算が合わないでしょうから、周辺の施設で儲(もう)けるとか、いろいろ方策を考えないと」
だが、こうした前提の立て方に対し、広島在住のサッカーライター、中野和也氏は同意できないという。
「現在、旧市民球場跡地はグルメイベントなどに使用されていますが、サンフレッチェ案では試合日以外にもコンコースを開放し、例えばランニングコースや飲食店を作ってにぎわいの場を創出しようとしています。また、ピッチの上に樹脂製のパレットを敷きつめれば、芝を傷めずにさまざまな催しに使用することが可能なのはスタジアム管理者の常識。特に旧市民球場跡地は立地がいいので、コンサート会場をはじめ、引き合いが多いでしょうね。だから、今以上にイベントで利益を生み出せる可能性大なんです」
一方、サンフレッチェの久保会長が呼びかけている、県知事、市長、商工会議所会頭を交えた4者会談がなかなか実現しない理由については、広島市役所の作業部会窓口であるスポーツ振興課の担当者がこう説明する。
「3月3日に久保会長が独自案を発表された後、われわれ作業部会は3月8日にサンフレッチェさんを訪ね、両候補地の建設案や実現可能性調査などの結果をすべてお渡ししています。それに対し、サンフレッチェ案の詳細な情報をまずは作業部会に伝えていただき、事務方同士で互いの案をすり合わせ、理解をした上で、必要とあればトップ会談を実施したいのです」