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地震国と原発 常に用心深くありたい

 いつ、どこで、大きな地震が起きてもおかしくない。しかも、それを予測することはできない。熊本地震が突きつける地震大国・日本の現実である。

     続けて起きた震度7、拡大する震源域に、鹿児島県で稼働中の九州電力川内原発の安全性に不安を感じた人も多いだろう。大分から海を隔てた四国電力伊方原発についても懸念の声が上がっている。

     しかし、地震のリスクを抱えているのはこの地域だけではない。それにもかかわらず政府は「原発回帰」を進めようとしている。日本は原発と共存できるのか。改めて考えるきっかけとすべきではないだろうか。

    予測不能の現実認識を

     今回の地震では14日夜に熊本地方の日奈久断層帯を震源とするマグニチュード(M)6・5の地震で震度7を記録、16日未明にはその北側の布田川断層帯を震源とするM7・3の地震で再び震度7の揺れを観測した。その後、地震活動は阿蘇地方や北東方向に広がり、熊本県から大分県まで広い範囲で大きな揺れが続いてきた。

     今後、活動は収まるのか、さらなる拡大もありうるのか。阿蘇山への影響はないのか。確実なことはわからない。現在の地震学や火山学の限界だ。

     原子力規制委員会は18日に臨時会合を開き川内原発を停止させないと決めている。地震の揺れの原発への影響は加速度(単位はガル)で評価されるが、今回、同原発で観測した最大の加速度は8・6ガル。再稼働の際の審査では最大620ガルにも耐えうると判断されている。布田川・日奈久断層帯で最大M8・1の地震が起きた場合でも150ガルにとどまるというのが審査時の評価だ。

     確かに、これだけを考えれば問題はなさそうに思える。しかし、それはあくまで、地震が想定の範囲に収まった場合だけだ。

     今回、気象庁や専門家は「内陸型でM6・5級の地震の後にさらに大きな地震が起きた前例がない」「離れた3カ所で同時に地震活動が起きたケースは思い浮かばない」といった言葉を繰り返している。政府の地震調査委員会は布田川断層帯の長さが想定より長かったとの見解も示している。

     日本全国にわかっているだけで2000の活断層がある。今回は既知の活断層で地震が起きているが、2000年の鳥取県西部地震や08年の岩手・宮城内陸地震のように未知の活断層でM7を超える地震が起きたケースはある。北陸電力志賀原発など原子炉直下に活断層が存在する可能性が指摘されている原発では、安全側に立った判断が必要だ。内陸型だけではない。プレート境界で起きた5年前の東北地方太平洋沖地震も専門家の予測を大きく超えた。こうしたことを考え合わせれば、すべての地震が電力会社や規制委の想定に収まるとは考えられない。

     地震に限らず、規制委の基準をクリアしたからといって原発の安全が確保されたわけではない。そのこと自体は規制委自身も認めているが、より現実的な可能性として考えておかなくてはならない。そのためには事故を想定した備えが不可欠だが、対応は万全とは思えない。

    安全神話に戻らずに

     今回の地震では、橋の落下や土砂崩れ、道路の陥没など、交通網の寸断があちこちで起きた。新幹線の脱線も現実のものとなった。こうした状況を見るにつけ、災害と原発事故が同時に起きた場合に住民避難が計画通りに進められるのか、懸念が拭えない。事故収拾のための支援にも支障が出るだろう。

     余震が続けば事故対応そのものも妨げられる。九電は川内原発で当初予定していた免震重要棟の新設を撤回しているが、地震に対する油断がないか、再考してもらいたい。

     旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故から26日でちょうど30年になった。当時日本は、旧ソ連の特殊事情で起きた事故であり、日本で原発事故は起きないと考え、対策を怠った。それから25年たって起きた福島第1原発の過酷事故は、日本の安全対策の不備を浮き彫りにした。

     その福島の事故から5年。政府は再稼働を進める姿勢を示し、運転40年で廃炉にする新ルールの例外中の例外だったはずの老朽原発の再稼働も事実上認めた。「福島のような事故はもう起きない」という安全神話の再来を懸念する。なしくずしの「原発回帰」は認められない。

     チェルノブイリの事故は30年たっても収束からほど遠い。事故当時、放射性物質を閉じ込めるために建てられたコンクリート製の「石棺」は老朽化が著しく、新シェルターの建設が進められている。福島でも、いまなお古里に戻れず避難先で生活する人々が10万人近くに上る。40年、50年続く廃炉の見通しも立っていない。被ばくの影響への不安も人々を苦しめる。

     たとえ起きる確率は低くても、未来を奪う原発事故は他の事故とは性格が違う。原発テロなど新しいリスクも国際的に注目されている。地震国として、原発の過酷事故を体験した国として、用心深さを忘れてはならない。

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