水枯れ「もう住めぬ」 断層の真上・西原村
美しい田園風景が広がる熊本県西原村の布田(ふた)地区は、熊本地震の震源となった「布田川断層」の真上にある。激しい揺れで住民3人が死亡し、96戸のほとんどが立ち入り危険と判定された。田畑の水源も崖崩れで失った。村は土石流などの2次災害を警戒し、雨が降るたび地区に入らないよう呼びかける。「この集落は人が住めなくなるのか」。先の見えない恐怖を抱える住民の中には、移住を考え始めた人もいる。
「地区の生命線はコメとかんしょ(サツマイモ)。水がないけん、今年は田植えができん。どげんもこげんもならん」。布田川断層の北側に広がる布田地区。16日のマグニチュード(M)7.3の地震で傾いた自宅の前で、コメ農家の山本秀輝さん(70)が嘆いた。江戸時代から農業用水にしてきた滝つぼが崖崩れで埋まって水源が断たれ、5月の田植え用にためていた貯水池も漏水している。
さらに、活断層が走る小高い森の斜面にいくつもの亀裂が入り、ところどころで起きた地滑りで樹木が倒れかけている。「地震前は稜線(りょうせん)近くの樹林帯から向こうの空は見えんかった。でも木々が倒れちょるから、今は隙間(すきま)だらけばい」。山本さんが指さし、雨がぱらつき始めた空を見上げ「土石流にならんといいが」と身震いした。
崖崩れで埋まった滝つぼから下流へ約500メートル付近に住んでいた建設業、岡村准之助さん(66)は16日未明、寝ていた1階が2階に押しつぶされ、30センチの隙間で生きのびた。「ドンとものすごい音がしたと思ったら、目の前に天井があった。あと少しずれて寝ていたら、頭がつぶされていた」。1階の別の場所にいた妻や2階で寝ていた長男も無事だったが、生きた心地は今でもしない。
「若いころから、布田は断層があるから『(地震が)来たら太か(大きい)ぞ』と言われていた。ばってん、こげんすごか地震が来るとは思わなかった」。布田川が横を流れる自宅の周囲には複数の亀裂が走り、地盤が緩んでところどころで川へ土砂が崩落している。「この場所は危なくて、家ば再建できん。自然や田園が美しくて大好きな場所だが、安全などこかに引っ越すしかない」と肩を落とした。【栗田慎一】