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考えたこと、感じたこと

「夢幻花」 東野圭吾 感想 上部ネタバレなし

先日、予告した夢幻花の感想です。後半ネタバレを含むあらすじがあるので、注意して閲覧してください。

 

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感想

一つ一つのエピソードが謎めいて配置されながら展開し広がっていく一方で、最後には綺麗にすべて回収される優れた構成の作品。読み進めていくにつれて、輻輳状態が、実はシンフォニーを作り出す布石だったというのがわかり読後も強い満足感を得られます。東野圭吾作品は、基本的にはどの作品もそうだけれども、それが特に洗練されている作品です。それは構成だけでは終わりません。登場人物の心理描写や人生観にも渡り、理論と感情をセットにして読み手に送り届ける高度な名人の業を見せてくれます。

作品中に「一部の人にしかない才能」と「ただ器用にできるだけ」という生得的な能力に関する対比の描写がありますが、正にその才能を持っているのが本作品の作者だと知らしめる出来になっています。

このままだと提灯記事に成り下がるので、欠点を探すとすれば、どこか映画化やドラマ化のしやすさを意識したところが見受けられて、商売上手だと勘ぐりたくなるところでしょうか。物を書くのが上手な作者は、お金を生み出すのも上手だった。お後がよろしいようで。

 

感想について筆者補足

本作品は、意味のある記述が多くて下手にエピソードを書いたり、また、要約してしまったりするとネタバレをしてしまうので、以上のような表面上の感想しか書けませんでした。「この人のこーんなセリフが好き」なんていうのも気軽に書けない。前の記事にも書いたけど、東野作品は50タイトル程読んでいますが、その中でもベスト3に入る位のプロットで、楽しんで読めました。なので、以下にストーリーの導入部分だけご紹介しましょう。

 

以下、ストーリーの導入 一部ネタバレ含む 閲覧注意

ストーリーの導入 一部ネタバレ含む 閲覧注意

蒲生(がもう)蒼太は、大阪にある大学の物理エネルギー工学科から同大学院博士課程に進学した大学院生である。江東区出身の蒼太がわざわざ大阪の大学に進学したのは、父と歳の離れた兄要介と何かにつけて折合いが合わないからである。嫌いという訳ではない。二人には、どこか自分を寄せ付けないところがあるからであった。

蒲生家には、入谷の朝顔市に出向いた後で、鰻屋に食べに行くという家族の行事があった。蒼太は子どもの頃からこのイベントが嫌だった。父と兄は、前に出て二人で歩き、朝顔を普通の目とは違った目で見て歩くからだ。しかし、鰻を食べたいので中学生になっても泣く泣く着いていっていた。

中学2年生のときの朝顔市で、靴擦れができたことをきっかけに家族とは別行動をする。休んでいたところで、目が猫のように大きくて鼻筋の通った少女と出会う。どうやら彼女の家も、朝顔市に顔を出すのが家族行事らしい。蒼太はこの綺麗な少女に初恋をする。けれども彼女と交際しているのが親にばれて、別れさせられてしまう。これも蒼太が父親と打ち解けられない理由の一つだった。

またある時、近所の人から、母のことを「二人目の奥さん」と呼ばれたことをきっかけに母は後妻であり、自分は後妻の子であると知る。歳の離れた兄と打ち解けられないのもこれが理由の一つかもしれなかった。

 

以上のように話は始まります。蒲生家は、父親も兄も警察官僚であり、蒼太は裕福な家庭に生まれますが、どことなく自分の身の置き所に迷いながら成長します。愛情をかけて育てられなかったという意味ではありません。しかし、距離感を感じて育つのです。そんな彼ですが、東京に戻った時家の前で一人の女性に出会います。

 

 

一方、もう一人の主人公、秋山梨乃は、若くして水泳選手として成功したものの、突然泳げなくなることで選手活動の停止を余儀なくされる。インターハイ3年連続優勝や国際大会でも家族や周りからは期待されていたため、この停止によって、梨乃は人間関係も失ってしまう。

周りからは、水泳選手でなかったとしても、人間関係まで失う必要はないといわれるものの、選手として命を懸けてきた彼女にとっては、水泳を通じて知り合った人間だけではなくて、水泳に期待した家族や親類にも顔を出しにくくなり、一人暮らしを始めて、気持ちを切替えようとする。

一人暮らしを始めた彼女は、その近所に住む祖父が食品メーカーの研究者として勤務経験があり博識であったこと、以前から水泳のことをほとんど口にしなかったこともあって、祖父の家に通うようになる。その時間は彼女にとって重要な時間であった。ところが、そんな日も長くは続かない。突然、祖父は殺されるのである。梨乃は第一発見者となった。先日、親類の尚人も亡くしていて、2度もの不幸が降り注ぐのである。

 

蒼太と違って、順風満帆に育った梨乃は、突然、水泳も失い、唯一の理解者である祖父も失い、茫然となります。気になるのは、祖父が生前残した黄色の花です。遺体発見直後は気が付かなかったけれども、生前「祖父が大発見になるかもしれない」と言っていたあの花の鉢植えが無くなっていたのです。ひょっとしたら、この花が祖父の死と関係しているのかもしれません。花の写真をブログに上げて、花の謎を解こうとして話が展開されていきます。

 

以降、この黄色い花をキーワードに話が広がっていきます。私は夢中になって読みました。興味があったら、読んでみてください。オススメの作品です。