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安倍国連外交 何が発信できたのか

 安倍晋三首相は国連総会を舞台にした外交で、国際社会に明確な発信ができただろうか。疑問が残った。

     象徴的だったのは、シリア難民問題だ。首相は一般討論演説で、シリア、イラクの難民と国内避難民向けに今年1年間で昨年実績の3倍にあたる約8・1億ドル(約969億円)を支援すると表明した。だが、その後の記者会見での発言は、資金協力を台無しにしかねないものだった。

     首相は、ロイター通信の記者から日本が難民を受け入れる可能性を聞かれ、「人口問題として言えば、我々は移民を受け入れるよりも前にやるべきことがある。女性、高齢者の活躍だ。出生率を上げていくにはまだまだ打つべき手がある」と否定的な考えを示した。

     難民支援は、人道問題だ。だが首相は、日本の人口減少に伴う労働者不足の視点でとらえ、難民を受け入れなくても、女性や高齢者が活躍する社会を作れば、やっていけると言っているように聞こえる。

     日本は「難民鎖国」と呼ばれるほど、難民の受け入れに厳しい国だ。昨年、日本に難民認定を申請した外国人5000人のうち、認定された人はわずか11人しかいない。

     もちろん欧州と日本では歴史的な経緯を含めて事情が異なる。日本が単純にシリア難民の受け入れ数を増やせばいいというわけではない。

     首相は記者会見で「難民を生み出す土壌を変えるために日本としては貢献したい」と付け加えており、そのこと自体は理解できる。だが「人道問題」を「人口問題」として語ってしまう首相の考えは、国際社会の価値観とずれているのではないか。

     首相は演説の最後を、「積極的平和主義」を掲げ、国連の安全保障理事会を改革し、常任理事国として貢献していきたいと締めくくった。その意欲に比べ、発信したメッセージは内向きでさびしい。

     2国間外交でも気になる点があった。日米では、オバマ大統領との会談がなく、バイデン副大統領と会談しただけだったのは残念だった。

     首相は春の米議会演説で、夏までに安全保障関連法を成立させると語り、「対米公約優先、国会軽視」と批判された。そこまでして対米重視姿勢を示していたが、今回、首脳会談には至らなかった。

     米中首脳会談の直後でもある。その結果を踏まえて、日米の首脳がアジア太平洋の安全保障政策について認識をすり合わせるべきだった。

     日露首脳会談は、プーチン大統領が経済協力への強い期待感を示す一方、領土問題に直接言及せず、成果は乏しかった。ウクライナ情勢をめぐる国際的な連携を重視しつつ、粘り強く交渉を続けるしかない。

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