新三本の矢 従来策の総括はどこへ
これまでの「三本の矢」が行き詰まり、目先を変えようとしているのではないか。
安倍晋三首相が「アベノミクスの第2ステージ」と宣言し、新しい三本の矢を示した。「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」だ。
目標として、国内総生産(GDP)を600兆円に拡大▽希望出生率1・8の実現▽介護離職者ゼロ−−を掲げた。
従来の矢のような政策手段ではなく、見栄えのするスローガンを並べたに過ぎない。裏付けに乏しく、実現への道筋が見えない。
2014年度の名目GDPは490兆円だった。内閣府は、名目3%の成長が続けば、20年度には594兆円に達すると試算している。
だが、名目成長率が3%を超えたのは1991年度が最後だ。今年4〜6月期の成長率(年率換算)も名目は0・2%、実質はマイナス1・2%と低迷した。
目標達成のハードルは極めて高い。しかし、首相は、景気底上げの具体策には踏み込まなかった。
出生率も14年は1・42にとどまり、1・8に上げるのは至難の業だ。
首相は幼児教育の無償化拡大に言及した。自民党が昨年の衆院選で公約したが、財源のめどが立たず、15年度は見送られたものだ。首相も財源確保の手立てを説明していない。
家族の介護で仕事を辞める介護離職は年10万人程度に上る。働き盛りの世代が多く、対策は急務だ。
首相は介護施設の整備を表明したが、事業者の倒産が相次いでいる。今春の介護報酬引き下げが要因の一つとされ、対応がちぐはぐだ。
そもそもアベノミクスを次の段階に進めるのなら、従来の政策の総括が必要だ。課題を洗い出さなければ、効果的な戦略も打てないはずだ。
最初の三本の矢は「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「成長戦略」だ。このうち一定の効果を発揮したのは、円安で大企業の収益を押し上げた金融緩和ぐらいだ。
だが、円安は食料品などの値上げももたらした。大企業の業績が好調でも全体の賃金はそれほど上がらず、消費は振るわない。成長戦略も多くが不発だ。株価も急落している。
首相は「デフレ脱却は目の前」と成果ばかり強調したが、アベノミクスが目指してきた「経済の好循環」は見えていない。
安全保障関連法の成立強行で政権は世論の反発を招いた。来夏の参院選をにらみ、国民の関心が高い経済や社会保障に重点的に取り組む姿勢をアピールしている。だが、政策の検証を欠いた総花的なフレーズを示されても、国民は戸惑うだけだ。