大卒採用見直し 実情ふまえ学生本位で
来春入社する大学生の採用内定式が10月1日、各地の企業で予定されている。
今年は経団連の指針変更で会社説明会開始が3月に、面接などの選考開始が8月に、いずれも4カ月遅くなった。就職活動の早期化と長期化で学生の勉強する時間がないという問題を解消するためだったが、さまざまな課題が浮上し、企業、学生双方から不満が出ている。
経団連は「何らかの改善ができるのではないか」と見直す方針だ。功罪や実情をふまえたうえで、学生の利益を第一に考えることが肝心だろう。高圧的な引き留めや巧妙な抜け駆けの余地を残せば、学生の希望が満たされないまま早期離職や意欲の低下を招きかねず、長い目で見て企業にもプラスをもたらさない。
学生には、前例のない日程だけに手さぐりで始まり、疲労と混乱の中で迎えた10月だろう。
「8月に選考開始」は名ばかりで、経団連の指針に縛られない外資系や中小企業などは春から選考を本格化した。全体像や秋までを展望しづらいので、早めの内々定をもらおうとして、代わりに活動の終了を求める「オワハラ」(他社への就活はさっさと終われと圧力をかける嫌がらせ)に直面した。文部科学省が全国82の大学、短大に調査したところ、約68%が「学生からオワハラの相談を受けた」と答えている。
大企業が面接などを始めた8月は、多くの地域で例年にない猛暑に見舞われた。
ダークスーツを着て汗だくになり、クールビズ姿の社員が働く企業を訪問しなくてはいけなかった。理工系の学生には卒業研究の準備を始める時期とも重なった。しかも、8月1日時点で大学生の6割が内々定を得たという調査もあり、経団連加盟企業でも解禁前に面接を始める企業があったとみられ、学生は入り乱れる情報にほんろうされた。
それでも、最近にない学生優位の「売り手市場」だっただけに、まだ救いはあった。理不尽なオワハラが表面化したのも、学生の立場が強かったからだろう。とはいえ、結果的に就活期間は長期化し、学生はやはり勉強どころではなかったようだ。
採用指針の見直しとともに、「4月に一括で採用」といった新卒採用のあり方も、根本から考え直すべき時期に来ている。日本的な雇用慣行である「終身雇用」「年功序列」が崩れつつある中、採用だけがそのままというのはおかしい。
また、新卒で就職できないと、次の機会はないというのも、日本全体の活力をそいでしまう。新卒に既卒者も含めた多様な採用活動を企業には求めたい。