災害と安否情報 速やかな公表を原則に
災害時の安否不明者をめぐる情報公開のあり方が問われた。関東・東北豪雨で鬼怒川の堤防が決壊して大きな洪水被害を受けた茨城県常総市の事例だ。
決壊から5日後に突然、15人とされていた行方不明者の無事が確認された。個人情報保護を理由に常総市が行方不明者の氏名を公表しなかったため、安否確認が進まなかったことが一因とされる。
無事の確認は喜ばしいが、混乱を招いたことは否めない。救援活動にも影響をきたした可能性があるのではないか。捜索のための警察や自衛隊の人的資源を、別の場面に割くことができたかもしれないからだ。
個人情報は大切だが、特に災害時は人命が優先する。安否情報の積極公開を行政は原則としてほしい。
災害時の安否情報は極めて重要だ。公的機関が人的な被害の実態を正確に把握し、対処する基本になるからだ。住民にとっても、家族や友人をはじめとした身近な人たちの安否は最優先で確認したいだろう。
だが、災害対応の混乱の中で、家族でも避難先が分かれたり、通信機器による連絡がままならなくなったりすることは十分あり得る。
今回も、避難所にいながら不明者として数えられていた人がいたという。「安否不明者」として、災害直後に氏名が公表されていれば、本人や知り合いを通じて、生存確認が容易にできた可能性がある。
個人情報保護法は、本人の同意を得ないで第三者に個人データを提供することを禁じる。ただし、「生命や身体、財産の保護に必要がある場合」は例外としている。
災害時は、まさにそのような時だ。高齢者ら要援護者に限らない。法にのっとれば、安否に関する氏名公表に問題はないはずだ。だが、自治体の判断は揺れている。
たとえば、昨年9月の御嶽(おんたけ)山の噴火で、長野県は行方不明者の氏名公表を、個人情報を理由に見送った。また同8月の土砂災害で、広島市は行方不明者のリストを公表したが、災害5日後にずれ込んだ。
広島市のケースでは、市と広島県警が把握する不明者数に開きがあったことが一因となった。今回、常総市と茨城県、また茨城県警の情報共有がうまく機能していなかったと指摘されている。関係機関は、いざという時に相互の情報を速やかに共有できる体制を整えてもらいたい。
また、内閣府は行方不明者を「死亡の疑いがあるもの」と定義するが、安否が確認できない「安否不明者」として速やかに公表したらどうか。安否確認に時間がかかりすぎるのは災害対応にマイナスにはたらく。住民の安全安心にもつながらない。