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米中首脳会談 地域安定に責任果たせ

 オバマ米大統領が、訪米した中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席と2日間にわたって会談した。最大の懸案だった米国へのサイバー攻撃問題では産業スパイ活動の禁止などで合意したが、南シナ海で中国が進める人工島建設など中国の海洋進出をめぐっては議論が平行線をたどった。

     パリの国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)に向け、中国が2017年からの排出量取引制度導入を表明するなど前向きの動きも見られたが、世界1、2位の経済大国の首脳会談としては驚くような成果があったとはいえない。しかし、両大国が対立を緩和し、共通の利益を模索することは重要だ。長時間にわたる首脳の意見交換を過小評価することもできない。

    問われる危機管理能力

     習主席の訪米は13年6月以来だが、国賓としては初めて。中国は2月、首脳の外国訪問としては異例の早さで訪米を発表し、今年最大の外交行事として準備を進めてきた。9月3日の「抗日戦争勝利70周年記念」の軍事パレードにも訪米前に威信を示す狙いがあったとみられている。

     しかし、米国内の歓迎ムードは盛り上がらなかった。中国が南シナ海で進める巨大な人工島の建設や米政府機関を狙った中国からのサイバー攻撃に批判が高まったからだ。直前にワシントン入りしたフランシスコ・ローマ法王の大々的な歓迎ぶりに埋没した感さえあった。

     8月の人民元切り下げが世界同時株安に結びつくなど中国経済の先行きへの不安が高まったことも誤算だった。習主席が最初の訪問地のシアトルで巨額の商談の合意を発表したり、首脳会談で人民元改革など経済構造改革を推し進める考えを強調したりしたことにも中国経済への懸念を払拭(ふっしょく)する意図が感じられた。

     もちろん米側も習主席訪問の重要性は認識していたのだろう。首脳会談直前に中国側の要望に応じて米国に逃亡していた汚職容疑者を強制送還するなど配慮を見せた。オバマ大統領も共同会見の冒頭、米国の対中輸出が約100万人の仕事を生み出していると評価した。

     一連の会談で両首脳が共に口にした言葉が「ツキディデスのわな」だ。古代ギリシャでスパルタとアテネが戦った故事から、既存の覇権大国と新興大国とが衝突することを意味する。オバマ大統領は「ツキディデスのわなを信じない」と表明し、習主席は「相互信頼を増し、ツキディデスのわなを防ぐ必要がある」と述べた。新冷戦のような事態になれば、国際社会も政治、経済両面で大きな影響を受ける。両国関係が深刻な事態に陥らないように危機管理することが首脳会談の重要な目的だったといえる。

     二酸化炭素排出量で世界トップの中国と2位の米国が気候変動問題で積極的な姿勢を見せたことは評価できる。合意文書には国連平和維持活動や核の安全、野生動物保護、途上国支援など幅広い分野での協力も盛り込まれた。米中が共通の利益を拡大することは国際社会にとっても望ましいことだ。ただ、米中の実力から見ればまだまだ物足りない。

     協力の広がりに限界があるのは疑心暗鬼があるからだ。米国は中国が既存の国際秩序に挑戦していると考え、中国は米国のアジアへのリバランス(再均衡)政策に中国封じ込めの狙いがあると疑っている。

    日本は読み間違えるな

     中国は対立を避けるために米中の「新型大国関係」が必要だと主張するが、その一方で東シナ海での防空識別圏設定や南シナ海での人工島建設など強硬な姿勢で海洋進出を進めてきた。力による現状変更を狙っているようにしか見えない。これでは「ツキディデスのわな」にはまってしまうだけではないか。

     習主席は首脳会談で南シナ海の領有権問題の平和的解決を目指し、人工島を軍事拠点化しないと表明したが、島での滑走路整備も伝えられる。サイバー攻撃問題でも米国は疑念を解いてはいない。減速する中国経済の将来にも米国との協力が不可欠なはずだ。中国が真に対立回避を望むなら行動を変えるべき時だ。南シナ海問題など対立する問題で米中両国が危機管理能力を示すことができれば、相互信頼の増大につながるし、国際社会の懸念も解消される。

     北朝鮮がミサイル発射をほのめかす中、どこまで深い議論ができたのか。シリア情勢の悪化や難民の流出をどう食い止めるか。国連安保理常任理事国である両国はもっと世界や地域の安定に向けた貢献ができるはずだし、その責任がある。

     米中関係は安保や人権での対立の一方、経済的、人的交流が深まり、複雑化している。安保問題でも空中での偶発的衝突回避に向けた信頼醸成措置の強化が合意されるなど軍同士の対話は日本よりも進んでいる。

     本来、日本も米中協力を後押しすべきだが、安保問題では米国以上に中国脅威論が強調されるきらいがある。オバマ大統領は今後5年間に100万人の学生に中国語を学ばせると発表した。米中共存の未来をにらんだ布石もしっかりと打っているのだ。米中の行く末は日本の未来とも密接に関わる。日本はその方向性を読み間違えてはならない。

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