VWの不正 環境保護への裏切りだ
ドイツのフォルクスワーゲン(VW)がディーゼル車に違法なソフトウエアを載せ、米国の排ガス規制を逃れていた不正は、「環境重視」の時代の潮流を顧みない背信行為と言える。
問題となる車は世界で1100万台にのぼり、8700億円の対策費を特別損失に計上した。さらに米国当局から2兆円を超える罰金を科される可能性もある。
質実剛健とみられてきたドイツの代表的企業が「環境性能」をITを使って偽った不正は、世界中の自動車メーカーと消費者との信頼関係を揺るがしかねない。自動車業界世界2位が犯した罪は重い。
VWは、一部のディーゼル車に、米当局の検査時だけ窒素酸化物(NOx)などの低減機能が働く違法なソフトを載せ、規制をクリアしていると見せかけていた。実際の走行では、基準値の最大40倍もの大気汚染物質をまき散らしていたという。責任をとってウィンターコルン会長は辞任した。
米司法省が捜査を始め、ドイツやイタリア、韓国などの当局も調査の意向を明らかにしている。だれが、いつから、どういった動機で不正を主導したかが焦点だろう。
VWは、1993年にトップに就いた創業一族のピエヒ氏による経営改革で低迷を脱し、ポルシェやベントレーなどを傘下に収めた。2007年に経営トップに就いたウィンターコルン氏も拡大路線を継いで、販売台数を急激に伸ばし、昨年初めて世界で1000万台を超えた。
特に中国市場に強く、年間300万台超を販売。今年は世界販売でトヨタを抜いて世界一が確実視されていた。日本市場でも大きな存在感を保ち、輸入車では15年連続の首位である。
一方で、米国市場では後れをとり、年間販売はグループ全体でも70万台前後にとどまっている。また、収益面では主力車種の利益率が低いためトヨタに大きく水をあけられ、製造や開発のコスト低減が課題と指摘されてきた。
こうした中、世界一厳しいと言われる米国の排ガス規制への対応を迫られた。しかし、厳格に取り組めば「出力」「燃費」「機器の耐久性」が犠牲になり、それを避けようとすれば新たなコストがかかる。米国市場での販売を増やしながら、利益率低下を防ごうと、環境性能を偽る背信に走ったのかもしれない。
VWの不正が発覚した後、世界の株式市場で自動車関連企業の株が大きく売られ続けている。また、燃費にすぐれ、欧州では主流となっているディーゼル車への懐疑的な見方も広がりそうで、影響は深刻だ。