新国立検証報告 無責任ぶり確認された
「国家プロジェクト」の看板を掲げながら、お粗末としか言いようがない実態が確認された。
2020年東京オリンピック・パラリンピックの主会場となる新国立競技場の整備計画の問題点を検証する文部科学省の第三者委員会が報告書を公表した。
権限と責任の所在があいまいだったため「何とかなるだろう」という空気が関係者の間に生じ、当事者意識が欠如していたことが、総工費が二転三転するなどした原因になったと報告書は指摘した。
計画の白紙撤回が決まった後、責任の所在を問われた東京五輪組織委員会会長の森喜朗元首相は「誰にも責任はない」「(責任は)全員で負わなきゃならん」「日本の役所というか、機構上の問題」などと発言していた。無責任体質の根は深い。
新国立のような難度の高いプロジェクトに求められる適切な組織体制を整備できなかった点で、事業主体である日本スポーツ振興センター(JSC)の河野一郎理事長、監督する立場にある下村博文文科相の責任は問われなければならない。
私たちはJSCが設置した有識者会議の運営方法などに問題があると以前から指摘してきた。
メンバーは日本ラグビー協会の要職にある森氏をはじめ、超党派のスポーツ議員連盟に所属する政治家、日本オリンピック委員会や日本体育協会、サッカーなど競技団体の幹部や著名作曲家ら「各界の重鎮」が並び、会議は利益代表者による陳情の場と化していた。開閉式の屋根を備えた8万人収容のスタジアムという基本構想はここから生まれた。
第三者委員会のヒアリングに河野氏が「文科省の了解を得ずに決定ということは基本的にはなかった」と話したのに対し、下村氏は「有識者会議でまとまったことに対し、文科省からだめとは言えない」と話すなど権限と責任の所在が明確ではないことが浮き彫りになった。その背景には関係者が「重鎮」に配慮し、河野氏の諮問機関に過ぎない有識者会議が重要事項を決定する機関となっていた実態がある。
8月に設置された第三者委員会は限られた時間の中で多岐にわたる問題点を指摘した報告書をまとめた。しかし、有識者会議のメンバーでヒアリングしたのは建築家の安藤忠雄氏だけ。会議の議論をリードした森氏やスポーツ議員連盟幹事長の遠藤利明五輪担当相は漏れた。
国家プロジェクトに対する認識の甘さや判断の遅れに対し、早期にチェックして修正するメカニズムが機能しなかった原因を解明するためにも政治家らへのヒアリングは不可欠だった。