日露外相会談 領土打開の戦略見えず
岸田文雄外相がこの時期にロシアを訪問する選択は、正しかったのか。そんな疑問の残る会談だった。
岸田氏とロシアのラブロフ外相が会談し、中断していた外務次官級による平和条約締結交渉を来月8日に再開することで合意した。
会談後の記者会見で、岸田氏は「北方領土問題について突っ込んだ議論をした」と成果を強調した。ところが、隣に座っていたラブロフ氏は「ロシア側は北方領土について協議しなかった。議題は平和条約締結交渉だった」とけん制した。岸田氏はぶぜんとした表情を見せた。
平和条約締結問題は領土問題そのものであり、ラブロフ氏の指摘は当たらない。実際、両氏は4時間半の会談の半分を領土問題に費やしたという。岸田氏は会談の翌日、記者団に「要は言い方の問題だ」と食い違いの理由を説明したが、記者会見の場で直ちに反論すべきだった。
両政府は2013年4月の共同声明で、平和条約締結交渉について、過去のすべての文書に基づいて進めることで合意した。その中には、4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結することを確認した01年のイルクーツク声明なども含まれる。
ラブロフ氏のけん制は、ロシアがウクライナ情勢をめぐって国際的に孤立し、経済も悪化する中で、国内向けに強い姿勢を示そうとする事情もあったと見られる。
ラブロフ氏だけでなくロシアは夏以降、日本への強硬姿勢を強めている。メドベージェフ首相が8月に択捉島を訪問するなど、閣僚が相次いで北方領土を訪問した。モルグロフ外務次官は「北方領土問題についての対話は一切しない」と語った。
そんな中、安倍晋三首相は、プーチン大統領との個人的関係に期待して、領土問題を進展させることに意欲を示す。両政府は、年内の適切な時期の大統領訪日を目指している。岸田氏の訪露は地ならしでもあり、首相官邸の意向が働いたようだ。
また、ロシアは対日強硬姿勢を示す一方、プーチン大統領が今年6月、共同通信などとの会見で、北方領土問題について「すべての問題は解決可能だ。そのためにも(首脳)会談が必要だ」と意欲を示している。
硬軟織り交ぜたロシア側の出方に対し、日本側は、交渉への揺さぶりなのか、何らかの方針変更があるのか、真意を測りかねている。それを探るためにも話し合いをせざるを得ないという判断もあった。
いずれ対話が必要になるとしても、安倍政権の対露外交は、首脳同士の個人的関係に頼り、年内の大統領訪日にこだわるあまり、足元を見られていないだろうか。領土問題の打開に向けた戦略が見えない。