©荒木飛呂彦
はじめに
最初に覚えた「メートル」は,仮面ライダー1号のジャンプ力(25m)あるいはウルトラマンの身長(40m)だったかもしれません.サンダーバード1号の全長(35.05m)じゃないことだけは確かです.
私が生まれたとき,世の中の長さの単位はメートルになっていました.
でも,メートルって誰が決めたんでしょう?
『ジョジョの奇妙な冒険』というたいへん人気のある漫画の作者である荒木飛呂彦には『スティール・ボール・ラン』という作品があり,劇中,こんなシーンが登場します.
(出典:ジャンプコミックス『スティール・ボール・ラン』 16巻より.図はhttp://atmarkjojo.org/archives/1744.htmlより)
18世紀半ばから起こった産業革命では,工業や貿易が急速に発達しました.今でこそ様々な工業規格があるために他国で生産した部品が問題無く使えるようになっていますが,日本で「尺」や「寸」(尺貫法 - Wikipedia)を使っていたように,当時は各国で独自の単位を用いていたので問題が生じてきたらしいです.
そんな混乱の中,「最初にナプキンをとった者」が現れました.それがフランスのタレーラン(シャルル=モーリス・ド・タレーラン=ペリゴール - Wikipedia).長さの単位を統一しようではないか,と彼が提唱したのが1790年(フランス国民議会による決議は翌1791年,長さや重さの新単位創設はフランス革命の一環)のことでした(メートル法 - Wikipedia).
では,どのようにして「1メートルの定義」を決めたのでしょうか?
第1の定義:子午線を測る
当初は3通りの案があったそうですが,赤道ー北極間の子午線の長さの10,000,000の1 (1千万分の1)を1メートルとすることに決めたそうです.
長さの単位として,1秒を振る単振子の長さ,赤道の全周,もしくは子午線全周の4千万分の1の三案のうち,どれが適切かを検討した。その結果,振子の場合は時間の単位が関係しており,また赤道の長さは測量が困難なために,結局,赤道と北極間の子午線の長さの千万分の1を長さの単位とすることに落ちついた。 そしてこの単位には「寸法」を意味するラテン語の“metrum”にちなみ,“m
tre”という呼び名が与えられた。(科学の歩みところどころ)
赤い点が子午線(経線,東経2度20分14.03秒,パリ子午線 - Wikipedia)
実際に測量したのは,北はフランスの最北の都市ダンケルクと南はスペインのバルセロナの間でした.折しも当時はフランス革命の真っ最中の1792年.数多の苦難を乗り越え,測量を完了させるのに6年もの歳月を費やしたそうです.
出発から6年を経た1798年,苦難の旅にも終止符が打たれた。測量の結果,赤道から北極までの子午線の長さは5130740トワーズとなり,1メートル が3ピエ11.296リーニュと算出された。さっそく,この長さを表示する板状のメートル原器が白金で作られた。この原器は,その保管場所である共和国文書保管所にちなみ,“アルシーブの原器”と呼ばれるが,この原器はのちにメートルの歴史上重要な役割をはたすことになる。(科学の歩みところどころ)
トワーズとはフランス語圏でかつて用いられていた長さの単位で,1トワーズ = 6ピエ(約1.949メートル)が,メートル法の導入によって 1トワーズ = 2メートルになったとのことです(トワーズ - Wikipedia).
第2の定義:アルシーブの原器
「アルシーブの原器」と呼ばれるメートル法の基準となる物体が登場することによって,「メートル」の定義が変わりました.すなわち,1メートルの長さは「赤道と北極間の子午線の長さの千万分の1の長さ」から,「アルシーブの原器(Mètre des Archives)=メートル原器そのものの長さ」になったのです(1869年).メートル法をフランス以外の国でも導入すべく締結されたのがメートル条約(1875年).日本がメートル条約に加入したのは1885年のことでした(メートル法 - Wikipedia).
メートル原器(出典:pierres blanches と 《カガクするココロ》:メートル原器)
しかし,原器と言っても所詮人間が作る物にはどうしても誤差が生じます.1ミリ,1ミクロンの違いもあってはならないものこそ基準となるはず.メートルの定義は科学の進歩によってまた変わりました.
第3の定義:光の波長
今度用いられたメートルの定義は,原器という物体ではなく,光の波長でした.
太陽光をプリズムに通すと色が見えます.光には波長があり,下の図では波長の短いものから紫(380nm〜),青(450nm〜),緑(495nm〜),黄色(570nm〜),橙色(590nm〜),赤(620〜750nm)となっています(下図の出典も含む:可視光線 - Wikipedia).これらはヒトの眼に見える光なので可視光線と呼ばれます.一方,紫より波長の短い光(紫外線)と赤より波長の長い光(赤外線)はヒトに目に見えないので不可視光線と呼ばれます.
これらの光のうち,クリプトン原子が出す橙色が選ばれ,1960年の第11回国際度量衡総会にてメートルの定義は「その光が真空中を進むときの波長の1650763.73倍を1mとする」(『新・単位がわかると物理がわかる』,p.39)とされました.
1mの定義は,地球の長さ→原器→光の波長へと移っていったのです.
なお,詳しいことはわからなかったのですが,光でのメートルの定義に大きく貢献したのはマイケルソン(アルバート・マイケルソン - Wikipedia)というアメリカの物理学者で,彼は「干渉計の考案とそれによる分光学およびメートル原器の研究」により,1907年,アメリカ人として初めてノーベル物理学賞を受賞しています.しかしながら,アメリカは今だにメートル法を採用していません(アメリカはヤード・ポンド法 - Wikipedia).
第4の定義:光速,そして原子時計
メートルの定義はさらに変わります.それだけ科学技術が進歩したのです.
次なる定義は,1メートルは「光が真空中を1秒間に進む距離の229792458分の1」である(約3億分の1秒の間に光が真空中を伝わる距離)とされました.
不確実性の低減を目指し、1983年の第17回CGPM(国際度量衡総会)でメートルの定義はさらに変更され、現在用いられている「光速」と「秒」で表す方法になった。これはセシウム原子時計が発明され、正確な「秒」が決められた事と表裏一体を成している。
この定義は、真空中の光速を有効数字9桁という高い精度となる299792458 m/sと固定して得たものである。さらに、特殊相対性理論によって光は光源の動きや方向に関わりなく、またどんな波長(振動数)でも一定であり、そして不変だという点が重視された。(メートル - Wikipedia)
真空中の光の速度は不変であること,正確な秒を測定できる原子時計の登場がメートルの定義を変えたとのことです.なお,原子時計はGPSにも搭載されています.
まとめ
メートルの定義は,地球の長さ→メートル原器→光の波長→光が1秒間に進む距離へと変遷しました.今後,さらなる科学と科学技術の進歩によってまたその定義は変わるかもしれません.
長さ(メートル),質量(キログラム),時間(秒),電流(アンペア),温度(ケルビン),光度(カンデラ),物質量(モル)の7つの基本単位は国際単位系(仏語Système international d'unités 略称:SI)と呼ばれています(国際単位系 - Wikipedia).メートル条約ではメートル及びキログラムという長さと重さの単位が導入されました.その後,時間が加わりMKS単位系(頭文字をとってMKS),さらに電流が加わりMKSA単位系となり,1954年の国際単位系スタートへとつながっていったのです(物質量モルは1971年に追加).
これらの単位系は国際度量衡総会で決定されるとのことですが,決定事項を代執行するのは国際度量衡委員会.事務局はフランスにあります.
そういえばFIFA(国際サッカー連盟: Fédération Internationale de Football Association)創設の地もフランス(第一次世界大戦のごたごたによって後スイスへ移る),初代会長ロベール・ゲランはフランス人でした.ここでも最初にナプキンを手にしたのはフランス人だったのですね.
このエントリは引用したWebサイト以外に次の書籍を参考にしました.宝石1カラット(1ct)が200mg(1907年第4回国際度量衡総会にて決定)なんてことも初めて知りましたが,物理のことはまだ良くわからないままです.
新・単位がわかると物理がわかる (BERET SCIENCE)
- 作者: 和田純夫,根本和昭,大上雅史
- 出版社/メーカー: ベレ出版
- 発売日: 2014/12/18
- メディア: 単行本
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ではまた!