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街の書店 本との多様な出合いを

 紀伊国屋書店が、村上春樹さんの新刊「職業としての小説家」の初版10万部のうち9万部を買い切り、話題を呼んでいる。版元から取次を経て書店へという出版流通のあり方に一石を投じる試みだ。背景には街の書店が年々減っている問題がある。

     出版不況は約20年の長きに及ぶ。出版ニュース社(東京)によると、総売上額は1996年の約2兆6980億円をピークに、消費税が3%から5%になった97年から減少に転じ、2014年は約1兆6891億円(前年比4・6%減)だった。

     特に目立つのは、雑誌売り上げの減少である。14年の内訳は、書籍が約8088億円(同4・1%減)、雑誌が約8802億円(同5・1%減)で、雑誌の減少幅が大きい。返品率は雑誌、書籍とも40%に近く、返品増が不振の要因になっている。

     手にとって本を選べる街中の「リアル書店」と、アマゾンなど「ネット書店」の売り上げ比が現在の85対15ほどから半々になれば、総売上額はさらに落ちるおそれがある、それでは小さな版元は本を出せず、新しい作家も生まれないだろう−−。紀伊国屋書店などの認識は厳しい。

     たしかに全国の書店数は、このところ大幅に減少している。書店数を調べているアルメディア(東京)によると、今年5月時点の国内店舗は1万3488店で、10年前の4分の3になった。リアル書店は雑誌販売の拠点であり、雑誌不振が街の書店の経営難に拍車をかけている。

     ただ読者からみると、指定された日時・場所に配達されるネット書店は便利な存在でもある。

     毎日新聞の読書世論調査(11年)で書店に何を求めるかを聞いたところ(複数回答)、「品ぞろえ」(73%)、「在庫の有無が分かる検索システム」(32%)、「注文した本が入手できる早さ」(31%)と、大型書店などの利便性が好まれていた。

     一方、小規模な書店の廃業が増えていることに関しては「身近な小さな書店もあってほしい」という回答が61%あり、利用は大型書店などに集中しつつ街の書店の存続を願うという相反する結果となった。

     実際、店主に読書の楽しみを教わったり、店頭で意外な本に出合ったりした経験は多くの人にあるのではないか。

     自社店舗の直接販売に加え、他の書店にも卸すという今回の紀伊国屋書店の試みは、全国の書店への波及という点では効果は限られるかもしれない。むしろ、身近な書店の大切さを考える機会と捉えたい。

     街の書店の消滅は、出版界の影響にとどまらず地方文化の衰退につながるだろう。大手書店やネット書店も含む多様な選択肢があってこそ、読者の利便性向上になる。

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